30話
「それにしても、次から次へと聞いた事のないような卑猥な単語が、電話口から聞こえてきて私も勉強になりました」
「全て忘れてくれ……な、仲間だろ?」
「仲間の下着を拝借しようとしていた人の何を忘れたらいいですか?」
「あれは……ブラデビルによる誘惑で俺も気がどうかしていたんだよ」
「そもそも下着の色だけで判断するのが間違っていますす! 私は黒以外にも色々と持っています!」
「なんというか……お前に羞恥心はないのか?」
「そうですね……敵に背を向けて逃げる行為は恥ずかしいですね」
「なるほどな。ただ、人がたくさん周りにいる時はあんまり自分の下着の色を堂々と言わない方がいいぞ」
ブラデビルを撃退した俺は、教室へは向かわずに盾石が待っていたファミレスにそのまま来て話し合いをしている。
「そういえば、先生に掛け合ってきましたよ。来週からは、もう居残り掃除をしなくていいそうです。これで時間が確保出来ましたね!」
「あぁ、用事ってそれだったのか。悪いな」
俺も職員室に付いていってれば、ブラデビルに襲われることはなかったのに。ちくしょう。
「あ、すみません! ありがとうございます!」
注文していたドリア、マルゲリータ、エビのアヒージョ、ハンバーグステーキがテーブルに運ばれ、盾石の声のトーンが上がる。
「じゃあ、冷める前に頂きますね!」
助けてくれたお礼と卑猥な単語を聞かせた謝罪で、ここは俺が奢る事になっている。
にしても、よく食べるな……。
厨房から視線を感じるが、今日は俺ではなく一人で料理にがっつく盾石を見ているのだろう。
「一口だけ、いりますか?」
「いや、いい」
こんなにあるのに一口だけかよ……。
まぁ、いらないんだけど。
「それより、はやく魔法陣を消さないとマズいぞ。このままだと、今日みたいな新しいモンスターが続々と出てくる。今日も運良く放課後だったが、その内、授業中とかにも襲ってくるようになったら色々と大変なことになる」
口の周りについたピザのトマトソースを紙ナプキンで拭い、コーラで流し込む盾石。
実にアメリカン。
「そうですね。なら、今週は土日も勇者活動に充てましょう」
「いや、土日は断る。勇者活動といえども、完全週休二日は譲れない」
俺はグラスに入った烏龍茶を一気に飲み干し、そのままテーブルに勢いよく置く。
「そうやって休んでいる間にも、モンスターはたくさん量産されているかもしれないんですよ? 怠けないで下さい!」
「ほぉ……。なら、こうやってお前がバクバクとご飯を食べている間にもモンスターが出てきているかもしれないな! 今すぐ、店を出て学校へ行こう! 気にするな、お会計は俺もちだ!」
「……くっ、ご飯は残さない主義なんです! それに、せっかく作って頂いたお店の人に申し訳ないでしょ!」
アヒージョについてきたバケットを思い切りちぎって、オリーブオイルにビチョビチョつける盾石。
「そうか……なら俺も協力してやろう! 貸せ!」
俺はもう一つのバケットを皿から奪い取り、ハンバーグのデミグラスソースをたっぷりと染み込ませた。それを自らの口に放り込んだまま、右手の剣でピザをカットし、左手に持ったフォークでハンバーグを突き刺し、口の中が空になったタイミングでそれらも放り込む。
ピンポーン。
「はい、ご注文でしょうか?」
「きのこピザと半熟卵入りドリアとカルボナーラとピリ辛チキンをお願いします。あ、あと、チョコバナナプリンアラモードと、パンナコッタ、季節のシャーベットもお願いします」
「はい、かしこまりましたー!」
「一緒に食べるんですよね? 追加で注文しておきました。感謝して下さい?」
盾石が早口で注文している間、俺はフガフガ言いながら、男の店員さんにジェスチャーを送ったが、完全にシカトされた。
というか、盾石しか見ていなかった。
仕事に私情を持ち込みやがって!
「……ふぅ。まぁいい。……なら望むところだ!」
「盾が剣より、優れているということをここで証明してみます! 負けませんよ!」
ピンポーン。
「すみません、トマトチーズハンバーグ追加で!」
「あ、私も! ペペロンチーノ追加で!」
剣と盾の仁義なきフードファイトが今ここに始まった。
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