27話
新月の下、街灯と車のライトのみで照らされた並木道を盾石と並んで歩く。
「それで、とりあえずの目標は魔法陣を消すということでいいんだよな?」
「いいもなにも、あなたが譲らないんで仕方ありません」
俺と盾石はさっきまでファミレスの中で激しい言い争いをしていた。そのせいか、野次馬がたくさん集まって来たので、ファミレスを出たのだ。
『勇者くん、今度は謎の黒髪美少女と人前で痴話喧嘩? 本命は一体誰なんだ⁈』とかいうネットニュースにならなければいいが……。
その黒髪美少女は、目の前にある小石を蹴りながら歩いている。
「……当たり前だろ。なにが『異世界に行って今すぐ魔王と闘いましょう』だ。色んな過程を、すっ飛ばし過ぎなんだよ!」
「だって、私たちが生まれた病院に異世界へのゲートがあるんですよ? なら行くしかないじゃないですか!」
そこにエベレストがあるからさ、という登山家の名言が頭をよぎる。
「異世界に行って、無事に帰って来られる保証なんてないんだぞ? それに、いきなり魔王に挑んで勝ち目なんてあるわけないだろ」
「『為せば成る』って言うじゃないですか!」
「『行けば死ぬ』だ、お前が言っているのは! ナメクジも倒せないくせに、魔王とか笑わせんなよ」
「魔王に勝てるかどうかはおいといて、負ける気はしませんけどね、私は」
私は、と強調されたことに少しイラッとしたが、横は見ないことにした。
なぜなら、もの凄い目力を右頬に感じるからだ。
「とにかく、異世界は後回しだ……」
「……まぁいいです。ただし、約束はしっかり守って下さいよ?」
「あー、分かった分かった……」
盾石を説得するために俺がした約束。それは、魔王を倒す戦略を俺が決める代わりに、現場の指揮権を盾石に委ねるというものだ。
どうしてもリーダーがやりたかったらしい。まるでガキ大将である。
「では早速。魔法陣を消す、ということは今あなたが決めたので、ここからは私の領分です。なので、明日からの活動は私が決めます! いいですね?」
俺が魔法陣を消そうと考えた理由、それは時間の確保をするためだ。今の俺たちには圧倒的に戦闘力と情報量が足りていない。異世界のことは何も知らないし、魔王の力も未知数だ。
俺たちが勇者である以上、勝てる可能性はゼロではないだろうが、間違いなく時間がかかる。
その状況で一番厄介になってくるのが召喚魔法陣なのだ。魔法陣が校庭にある限り、俺たちの行動は常に後手に回ってしまう。これ以上モンスターが増えて学校生活を脅かされるのは、盾石の使命にも反するし、俺の望むものでもない。
といっても、魔法陣を消すのにも、それなりに時間がかかりそうだがな……。
やれやれ──
「ちょっと! 聞いてるんですか? いいですね? いいんですね!」
完全に聞いてなかった。しかし、ここで聞き返すと、もっと睨まれそうである。
「いい、いい。おっけい、おっけい」
なんのことか、さっぱりだが……。
「では、明日からのことは家に帰って連絡するので、連絡先を教えて下さい」
「お……おう。QRコードでもいいか?」
「かまいません」
盾石はスマホを取り出すと、俺のコードをなんてことない様子で読み取り始めた。
画面の光で顔だけがハッキリと見える。相変わらず、無駄に整っているのが気に食わない。
「はい」
俺のアカウントを追加した後、盾石は自らのスマホを渡してきた。見ると、連絡先のアプリが開かれてある。
「ん? なんだよ」
「そこに緊急連絡先を入力して下さい」
「…………」
安全レバーがしっかりとしたジェットコースターほど怖い。
俺はそれと同じ感覚になった……。
メッセージグループ名:ABILITIES
〈剣賀が盾石護梨を招待しました〉
盾石護梨『よろしくお願いします! 何かあった時は、ここで共有したいと思います!』
麻帆☆『護梨ちゃん! よろしくー!』
マニル『よろしく〜、もっとラフにも使っていいよ〜笑』
射奈『こちらこそ、よろしくお願いします!』
剣賀『逆に何かあった時は、教えてくれ』
マニル〈スタンプを送信しました〉
射奈〈スタンプを送信しました〉
麻帆☆〈スタンプを送信しました〉
盾石護梨〈スタンプを送信しました〉
スマホの画面をそのまま十数秒眺めた後、俺はベッドに飛び込んだ。
「……俺って、もしかして嫌われてるのか?」
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