19話
一時限目の数学を終え、二限目の化学の教科書を机から取り出す。
最初の授業なので、オリエンテーションを含めて、視聴覚教室でちょっとした化学実験のビデオを見るらしい。
「剛〜。一緒に移動教室行かない?」
マニルがいつも通りパーソナルスペースをガン無視して話しかけてきた。
ジャムは胸ポケットから、俺を睨んでいる。
ていうか、学校ってペットOKなの?
「いや、先に行っててくれ。俺は麻帆が来るのを待ってるから」
さっきは盾石の邪魔が入って、聞けなかったことがいくつかある。
麻帆の話を聞いて、放課後までにモンスターの対策を考えておきたい。
「珍しいね。魔法を使って、なんか悪いことでも企ててるの?」
「んなわけないだろ。企てるにしても、あいつの魔法には頼らねぇよ。成功率がグンと下がるからな」
「フフッ、麻帆はいい子だし、良い魔法使いになると思うけどな〜」
「今はまだ見習い駆け出しドジっ子魔法使いだから、だいぶ先の話だろうな」
「その時、私は虫とも話せるようになってたりして♪」
ジャムがビクッと体を震わす。
ハムスターなのに、虫が苦手なのだろうか。変わったやつだ。
「話せるようになってたら、害虫たちに俺の家には絶対に入らないように伝えておいてくれ。特にG」
「私が言ってる虫っていうのは、てんとう虫とかアゲハ蝶のことだから、Gは無理〜」
一瞬、残念な気持ちになったが、よく考えればそっちの方が都合がいい。
マニルがセミと仲良くなったりした時には、とんでもない起こされ方をしそうだ。
「……まぁいい。それよりさ、今日の放課後空いてるか?」
「え。空いてるというか……空けるよ。どうしたの?」
マニルはジャムをポケットから取り出すと、手の上に置いて撫で始めた。これは時々するマニルの癖だが、付き合わされているジャムは満更でもなさそうだ。
「射奈にも伝えておいてくれ。俺たちの能力とか、昨日のナメクジの件で話がある」
「あ、それね……。ナメクジの話、まだ終わってなかったもんね」
盾石も呼んで、放課後に五人で今後の対策を考えるべきだと俺は考えていた。
相手の狙いが明確でない以上、今の事態を全員で共有しておくべきだ。
「うん。了解! じゃあ、廊下で射奈が待ってるから先に行くね!」
「おう、よろしく」
俺のパーソナルスペースからマニルが離れる。
後ろに向き直る動作に従って流れた綺麗なブロンドヘアが、俺の頬を優しく撫でた。
「じゃあ、また後でねっ!」
マニルは扉の前で振り返り、俺にウインクをして廊下に出た。
「……本当にここで合ってるのか?」
「うん! だって、先生に言われたし! きっと今、先生が視聴覚教室に行って皆に説明してるんだよ。もうすぐ来るって!」
お手洗いから戻って来た麻帆が、教室が変更になったらしいよ、と言うので、俺たちは化学実験室にいる。
二時限目の始業時間から十分を経過しているが、俺たち以外に生徒は一人もいない。
「いや、絶対おかしい。視聴覚教室って、この教室の下で一階だよな? こんなに時間かからないだろ」
「う〜ん。でも、教室に戻る時に廊下で先生に言われたんだけどなぁ……」
「その先生の名前は?」
入学式が始まる直前、俺は職員室で先生全員に挨拶をした。
化学の先生は、俺の剣に興味津々でベタベタとソードタッチをしてきたので、一番印象的だったのを覚えている。
「先生の名前は聞いてないけど、ちゃんと化学の先生って言ってたよ。背の高い男の人だった!」
「男? 化学の先生は女の人だぞ?」
三十代くらいの背が低い女性だ。背の高い男? 誰だ、一体?
バタッ。
「麻帆? おい……麻帆っ! おい、どうした! しっかり――」
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