5話 〜動物使いの少女は目のやり場に困る〜

「小鳥も集まれば怪鳥に見えるんだよ。小学校の時、スイミーってあっただろ? あれと似た感じだ」

「え〜そんな話だったっけ? ジャム、覚えてる?」


 ジャムというのは、常にマニルと一緒にいるハムスターである。

 ジャンガリアンハムスターを略して「ジャム」という名前だ。

 金色の毛並みをしており、いかにも高貴なハムスターという感じがする。

 なにかを思い出したような様子で、ジャムがマニルの耳元でモソモソしている。


「あぁ! 小さい魚たちが集まって、大きな魚のフリをするやつね〜。そういえば、そんな話あったね。賢いね、ジャム〜!」


 何も知らない人がこの光景を見たら、金髪美少女の猿芝居としか思わないだろう。

 だが、そうではない。


 マニルは「動物使い」だ。

 

 あらゆる動物とコミュニケーションを図ることができる。

 俺と同じで生まれた頃から不思議な力を持っているタイプの人間だ。物心がついた時から動物と話せたらしいが、周りの人間は誰も信じてくれなかったらしい。

 幼稚園の時、同じ組にいた俺にだけ打ち明けてくれた。

 テレビで勇者くんのことを知っていたらしく、俺なら自分の不思議な能力を信じてくれると思ったそうだ。実際、俺は生まれた時から有名人で大人と関わることが多く、幼稚園児にしてはかなり大人びていたし、マニルの話を聞いても驚きはしなかった。

 そこからマニルとはよく遊ぶようになった。


「それで、何しに来たんだよ。まだ朝の六時半だぞ」

「同じクラスだし一緒に朝ごはん食べてから学校に行こうと思って! 別にいいでしょ?」


 近所なのもあり、小学生の時はマニルと一緒に通学することも多かった。

 その時の習慣が残っているのか、今でもこうやって俺をたまに起こしに来る。


「そうか。朝ごはんに関しては、作るのは俺じゃないから母さんに聞いてくれ。そして学校には俺一人で行く。以上だ。おやすみ」


 タンッ。


 窓を勢いよく閉め、大きな欠伸をする。二度寝はしない主義だが、今日は仕方ない。

 ここ数日の睡眠不足がまだ解消できていないからな、うん。

 ベッドに戻り布団を頭までかぶる俺。


 ドタドタドタ! バン!


「あれ……寝てる?」


 勢いよく開けられた扉から、マニルの甘い香水の匂いが漂ってくる。

 やべ、寝る時に鍵するの忘れてた。


「そっか、そうだよね。昨日あんな事があったから、夜遅くまで寝られなかったんだね」


 思い出させるな。笑い話にするほど、傷は癒えてないんだよ。


 ミシッ。


 ベッドが少し軋むような音がして、ゆっくりと目を開けると眼前にスカートのチェック柄が広がった。

 おい、仮にもここは思春期男子の部屋だぞ。そんな軽々しくベッドに座るんじゃない。

 足をパタパタさせているのか振動が伝わってきて、ベッドがギシギシと音を立てている。


「じゃあ私が寝かせてあげる」


 マニルはそう言うと、俺の頭に柔らかい手を置いてリズムを取り始めた。


「げんこつ山のたぬきさんっ、おっぱいのんでねんねして〜」

「お、起きてる! 起きてるからやめろ!」


 腹筋を使い即座に上体を起こし、マニルの手を払い除ける。

 これ以上は色々と俺がもちそうにない。


「いいの? せっかく子守唄うたってあげてたのに」

「チョイスおかしいだろ、それにお前、お……。いや、なんでもない」

「これで分かった? 私にたぬき寝入りは通用しないからね? 動物使いだよ?」


 その理論はよく分からんが、女子が歌う『げんこつ山のたぬきさん』の破壊力は身に染みて分かったよ……。

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