4話

 ガガガガガガ。


 保健室で借りた体操服を着て、剣を引きずりながら校門を出る。


「この右手の剣さえなかったら……。あー、自己紹介失敗したぁぁぁ!」


 紙袋に入った無惨な制服を横目に、まぁまぁのボリュームでひとりごちた。

 パンツを晒す事に比べたら、独り言を聞かれるのなんて可愛いもんだ。それより、どうせパンツを見られるなら一枚だけ持っているブランドもののパンツ履いてくれば良かったな。

 いや、あの状況でどんなに格好いいパンツを履いていても悲鳴エンドは回避できなかったか。


 ザザザザザザ。


「誰だ!」


 尾行されている気配がして、物音がした後ろへ振り返る。


「何だ、気のせいか」


 後ろには誰もいなかった。常に人の視線を浴びているからか、人の気配には敏感だ。

 はぁ、もう疲れた。

 入学式の初日に、制服を二回斬り、変な女にも絡まれる。

 

 平穏はいつ俺のもとへ訪れてくれるのだろうか……。




 チュンチュン。チュンチュン。チュンチュン。チュンチュン。


 翌日の朝、俺は小鳥のさえずりで目を覚ました。俺のモーニングルーティーン。

 それは、まず日光を浴びて体内時計のリセットをするところから始まる。

 ちなみに睡眠は七時間がベストだ。

 清々しい気分で、俺は自分の部屋のカーテンを全開にした。


「って、うわっ!」


 情けない声を出して、尻餅をつく俺。

 戸建て住宅の二階にある俺の部屋の窓の外では、数十匹の雀が部屋の中に向かって鳴き続けていた。どうりで、さえずりの数がいつもより多かったわけだ。

 あいつの仕業だな……。とりあえず窓を開けて、剣の鞘で雀を追い払う。

 遅刻しそうな誰かの家で、またオーケストラを組んであげてくれ。


「やっと起きた〜! 遅いよ、剛!」


 身を乗り出して窓の下を見ると顔馴染みのある人物がいた。


「おい、起こすなら小石とかにしろよ! それが定番だろ!」

「えー、小石より小鳥の方が可愛くない?」


 モーニングバードの黒幕はこいつである。

 容姿端麗の日英ハーフ。

 胸元まで伸びたブロンドヘア、透き通るような白い肌、澄み切った青い瞳、ハリのある桃色の唇、存在感のあるバスト。

 俺がモデル事務所のスカウトマンなら、必ず声をかけて名刺を渡すほどのプロポーションの持ち主。

 幼稚園、小学校、中学校の同級生を経て、現在は高校のクラスメイト。


 動亜どうあマニル。

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