第149話 すごい話、だったなぁ

 祐介くんの過去の話を聞いた私は、今は自分のベッドの上に仰向けになって天井を見つめていた。

 あれだけ優しい祐介くんが誰ともお付き合いをしたことがないなんて……出会った頃から不思議だと思ってたけど、あんな理由があったら、そうなっちゃうよね。

「それにしても……すごい話、だったなぁ」

 本来なら告白に失敗して、そのショックを何日か引きずってしまうけど、言ってしまえばそれで終わりになるはずだった。でも、祐介くんの告白を偶然聞いてしまったクラスメイトに『振られ神』なんてあだ名をつけられて、そこからの祐介くんの生活は一変してしまった。

 クラスのみんなと一致団結して行い、かけがえのない思い出を作れる文化祭も、高校生活で一回しかない修学旅行も祐介くんは経験してないだなんて……しかもその理由があまりにも理不尽すぎる。

「……」

 私は右腕を目の上に乗せ、そして力いっぱい握りこぶしを作った。

 私の中に怒りの感情が込み上げてくるのがわかる。ここでの生活を始めて二日目の時に、あのランジェリーショップで真夕さんから祐介くんの過去をぼんやりとだけど聞いた時よりもはっきりとした怒りが。

 それは私が祐介くんに明確な恋心を抱いているからというのも理由のひとつだと思うけど、それ以前に祐介くんにあだ名をつけ、噂まで流した女の人の行動がどうしても理解できない。

 なんで、人の恋の失敗を面白おかしく他人に言いふらせるの? どうして心の傷を抉るようなことを平気な顔してできるの? その先に祐介くんが負うことになる……本来なら負うこともなかった傷のことまで考えられなかったの?

 中学生だからそんなことまで考えられなかったでは済まされない……その時の女子のとった行動は、祐介くんの未来を大きく変えてしまった。本来なら、楽しい高校生活……新しいお友達もできて、新しい恋もいっぱいして、学校行事を楽しい思い出として心にしまうはずだったのに……その人はまったく別の……真逆の高校生活にしてしまった。

 話してくれたような内容が三年以上も続いたなんて思うと……とても胸が締め付けられる。

 私は左手を胸の辺りに当て、シャツを強く握りしめる。

 祐介くんがどれだけ心折れそうになったのか、どれだけの涙を流したのかはわからない。でもきっと、想像を絶する辛さがだったのは間違いない。

 ご友人がいたから、ご両親に迷惑がかかるからって理由だけでその辛さに耐えた祐介くん……。

 ご両親に自ら打ち明けたのか、祐介くんが変わっていったのを気づいたご両親から聞いたのかはわからないけど、こんな話、何度もしなくないよね。

『恋愛に懲りた』って聞いていたけど、そうなっちゃうよね。

「はぁ……」

 私は一度、大きなため息をついた。

 本当なら、祐介くんの話を聞いた私が祐介くんに優しい言葉をかけようと思ってたのに、それなのに泣いちゃって……もうわんわん泣いちゃって……結果、祐介くんに優しい言葉をかけられてしまい、心が満たされて……胸が締め付けられて……キュンキュンした。

 自分でもわかってるけど……祐介くんへの想い、だんだんと制御が効かなくなってきてる。

 自分が辛いのに、それなのにあんな優しい言葉をかけられたら……。

 早く祐介くんとお付き合いをしたい。祐介くんのトラウマを完全に忘れさせたい。

「……」

 それと同時に、私は祐介くんにあだ名をつけ、噂まで流した女性にどうしても会いたくなった。

 会って、言いたいことができてしまった。

 あと数日したら私と祐介くんは一緒に地元に帰省する。顔も名前もわからない……祐介くんはきっと、トラウマを植え付けた張本人の名前を無意識に口にしなかったんだろうけど、もしその人に会えたなら、絶対に言ってやるんだ。

 あなたは、根本的な勘違いをしている……って。

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