第147話 どうしてくれるんだ!

 そして賢二が佐藤さんに告白した翌日、登校して席に座ると、賢二が俺の席にやってきた。

「なあ祐介。ちょっといいか?」

「? あ、ああ……」

 俺は賢二に連れられ、人気のない屋上前の扉に来た。賢二はそこで、俺に近づいてすごい顔で静かにこう言った。

「おい『振られ神』! ダメだったじゃないか! どうしてくれるんだ!」

「……え?」

 突然のことで、俺はどう反応したらいいかわからずに固まってしまう。

 そんな俺を見て、賢二はまくし立てる。

「佐藤さんへの告白だよ! 昨日、振られちまったんだよ!」

「そ、それは……残念だったな」

 今の賢二にどういう言葉をかけたらいいかわからなかったので、振られる辛さを知っている俺は、慰めの言葉をかけた。

 だけど、それが賢二の怒りの炎に油を注いでさしまったようで……。

「残念だっただぁ!? お前のせいで振られたんだろうが! それをお前は何他人事みたいに言ってんだよ!」

「お、俺の責任って……どういうことだよ!」

 告白を決心したのも、告白して振られたのも賢二で、俺が介入できるようなことは一切ないはずなのに、なんで賢二は俺に責任を押し付けてくるのか、まるでわからない。

「『振られ神』のお前がいたから! お前と友達だったから! 俺は佐藤さんに振り向いてもらえなかった! やっぱりあの噂も本当だったんだな……」

 賢二は最後に気になることを言っていたので、半ば放心状態で頭が回っていないが……だからこそ自然に疑問を口にした。

「あの、噂って?」

「お前がいると周りの告白も失敗するって噂だよ! お前といると俺たちの恋愛運も下がっちまうとも聞いた。結果、その通りだった」

「……は?」

 な、なんだよその噂……デタラメにも程があるだろ!

『振られ神』ってあだ名だけで、どうしてここまで言われなきゃならないんだよ。

 ……ん? さっき、賢二は『噂』って言ったよな? だとすると、それを広めた人物がいるということだ。

 大体の察しはつくけど、賢二が素直に答えるかはわからないけど、聞かずにはいられなかった。

「誰が、その噂を広めたんだ?」

「お前を『振られ神』って最初に呼んだ、アイツだよ」

 やっぱりか。そうだとは思ったよ。

「とにかく! 今後は俺に近づかないでくれ。お前といたんじゃ、俺はいつまで経っても彼女ができやしないからよ!」

 そう吐き捨てて、賢二は階段を降りようとする。

「ちょ───」

「話しかけんなクソ『振られ神』が!」

「……」

 その背中に声をかけ、手を伸ばしたが、賢二はさらに吐き捨て、止まることなく階段を降りた。

 俺は何も掴めなかった手を下ろし、その場に座り込んだ。

『振られ神』……デタラメな噂……きっともう学年中……いや、下手したら学校中の生徒に広まっていたとしてもおかしくない。

 あの陽キャたちはいい意味でも悪い意味でも顔が広い。俺がいくら噂がデタラメだと言ってもきっと信じてもらえないし、それどころかさっきの賢二みたいに酷いことを言われて拒絶されかねない。

 アキとリョウなら俺がお願いしたら動いてくれるかもしれないけど、いい結果になるとも思えないし、下手したらあいつらも俺と同じ目にあうかもしれない。

 アイツらは大切な友人だ。だから頼めない。

 それに、もしアイツらまで離れてしまったら、俺はこの学校で完全にひとりになってしまう。アイツらの友情を疑うわけではないけど、俺は……怖い。

 もし本当にそうなってしまったら、きっと俺は耐えられない。

「はは……俺は三ノ宮さんに……好きな人に想いを告げただけなのにな……ううっ……!」

 視界が歪み、俺の目から涙が落ちる。

 俺はその場でうずくまり、しばらくひとりですすり泣いた。

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