第136話 どうかな? この水着

「な、那月さん!?」

 那月さんの突然の行動に慌てる俺。

 那月さんの名を呼ぶも、那月さんは黙って少し下を向きながらゆっくりとファスナーを下ろしていく。

 ファスナーが下りて、那月さんの白く美しい肌が少しだけ見え、俺の心臓はどんどんと鼓動の速さ、そして強さを増していく。

 そして、いよいよファスナーが一番下まで下り、ラッシュガードで隠れていた那月さんの水着の一部、胸の谷間、白磁のように白く、それでいて細いお腹周りが姿を見せた。

「……」

 那月さんから目が離せない。

 見惚れて声も出せない。

 本当に美しくて、呆然と立ちつくして見ることしかできない。

 那月さんは、ラッシュガードの開いたファスナー部分を持ち、ゆっくりとラッシュガードを脱ぎ始めた。

 那月さんの肩が、そして細い腕も顕になる。

 そして、那月さんがラッシュガードを完全に脱いだ時、俺の心臓は痛いほど跳ねた。

 確かに痛い。だけど、この時の俺の神経は、ほとんど目に集中していた。

 ラッシュガードを脱いでる時から少し見えていたけど、那月さんが着ているのは水色のビキニだ。

 胸元の中心がリボン状になっていて、キュートさも合わさっている。

 シンプルなビキニなんだけど、どうしてこう……那月さんが着ると特別なものに見えてしまうんだろう?

 俺が那月さんのことが好きだから? 那月さんがとびきり可愛くてとびきり美人だから?

 それに、那月さんの肌をちゃんと見るのはこれが初めてなんだけど……。

 白っ! そして細っ!

 那月さんの四肢は細いのは知っていたけど、ウエストもマジで細い。

 それなのに、どうしてウエストから少し上の部分は、ああも大きいんだ!?

 こ、これはマジで、男の目を釘付けにし、女性も羨む完璧なプロポーションだ!

 那月さんは手に持っていたラッシュガードを腕にかけ、かけた方の手で反対側の腕を掴んだ。

 それにより、那月さんの大きな胸が寄せ合って、谷間が強調された。いけないとわかっているのだけど、自然と目がそこに向いてしまう。

「あ、あの……祐介、くん」

「っ!」

 那月さんに呼ばれたことで、咄嗟に那月さんの顔を見ると、那月さんは顔を真っ赤にしながらも、恥ずかしいと顔に書いているけどまっすぐ俺を見ていた。

 まるで俺になにか聞きたいことがあるような───

「ど、どうかな? この水着……」

 那月さんが言う直前に、その考えに至った。

 そうだよ! この場面で那月さんが俺に聞きたいことってそれしかないじゃん!

 那月さんがあまりにも美しくて、視覚に全神経のほとんどを集中しすぎた結果がこれだ。

 こういうのは、男の方から感想を伝えるのがスマートなやり方なのに……くそっ、もっと余裕を持つようになっていかないと。

「えっと……とても、綺麗で……に、似合って、います。な、那月さん……可愛いです」

 最後の一言は余計だったもしれないけど、自然半分、勢い半分で口から出てしまった。

 年下に『可愛い』と言われても、那月さんとしては微妙だよな。でも那月さん、二十四歳って言ってたけど、綺麗ですっぴんはメイクしている時以上に童顔だから、全然そんな歳には見えないんだよな。

「……よ、よかったー! あ、ありがとう祐介くん」

 俺の不安は外れ、那月さんは満面の笑みだった。喜んでくれたようで一安心だ。

「い、いえ……素直な感想を、述べただけですので……」

「ふふ、祐介くん。敬語に戻ってるよ」

「あ、ご、ごめん。つい……」

 那月さんはくすくすと笑っている。本当に可愛い笑顔で、つい見惚れてしまう。

 ここで俺は、新たな疑問が浮かんだ。

「那月さん。なんで三人を先に行かせたの?」

 わざわざ水着をお披露目するのなら、みんなを先に行かせる必要はなかったと思うんだけど、どうしてなんだろう?

 そしてなんで那月さんはまた頬を少しだけど赤く染めているんだろう?


「お、男の人には……パートナーである、祐介くんに、一番最初に、見せたかったから……」


「っ!」

 つ、つまり……最初に俺に見せるために、あえてここまでラッシュガードを着てきたってことなのか?

 や、ヤバい……嬉しさとドキドキで、気持ちが高揚する。目の前の那月さんが可愛すぎる。なんか、那月さんへの気持ちがさらに強くなってしまう。

 だけど勘違いはしない。那月さんはあくまで『同居人のパートナー』の俺に最初に見せたかっただけだ。

 俺は光栄ながらも、今は那月さんの一番近くにいる男で、信頼もされてる……と思う。

 だから最初に那月さんの水着を見られる男という権利を得られただけ。

 相変わらず那月さんのそういう言動にはすごくドキドキさせられるけど、だんだんと勘違いすることはなくなってきた。

 悲しいけど、今はこれが現状だ。

 いまだに那月さんを振り向かせることはおろか、ドキドキさせることもできてないけど、この夏休み中にはなんとか……ドキドキはさせたい。

 断られるかもしれない恐怖はあるけど……ち、ちょっとだけ頑張ってみようかな?


 祐介くんから、似合ってて可愛くて綺麗って言われた……!

 すごく嬉しい。今までその言葉は何度も聞いてきたはずなのに、祐介くんに言われるとどうしようもなく嬉しくてドキドキする。

 祐介くんの顔、赤いし、ドキドキしてくれたのかな? ちょっとは意識してくれたかな?

 今はこんな手を使わないとドキドキさせられないけど、いつかは私が隣にいるだけでドキドキしてくれるようになったら嬉しいな。

 この夏休みに、祐介くんとの思い出をいっぱい作ろう!

 だからまずは、みんなと、そして祐介くんとこのプールを思い切り楽しもう!

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