第133話 水着は見せたんですか?
「それじゃあつーくん、祐くん。また後でね~」
プール施設内に入り、それぞれ更衣室へ向かう分かれ道で、男性陣……祐介くんと新くんといったん別行動になる前、椿さんがふたりに手を振っていた。
「おう、待ってるぜ椿」
「ゆ、ゆっくりで、いいですからね」
椿さんたちは相変わらずラブラブで、新くんが椿さんの頭を撫でている。
そして祐介くんは、『自分たちを待たせてもいいから……』と、優しさを見せてくれた。
「それじゃあ行きますよ那月さん、椿ちゃん」
「はい」
「は~い!」
真夕さんが先に歩き出し、椿さんがそれを追いかける形で真夕さんに並んだ。
私は祐介くんと新くん……主に祐介くんにだけど、少し笑みを見せて小さく手を振り、ふたりの後を追った。
更衣室に入り、おしゃべりをしながら三人で水着に着替える。
「そういえば、おふたりはそれぞれのパートナーに水着は見せたんですか?」
「っ!」
真夕さんが『パートナー』と口にして、私は少しだけドキッとした。
私はいつも、祐介くんをパートナーと思ってるし口にもしてる。祐介くんも最近は『パートナー』って言ってくれることが増えたけど、祐介くん以外の口から聞くと、嬉しいような、なんかむず痒いような気持ちになる。
「まだ見せてません。今日のお楽しみということで秘密にしてました」
椿さんは笑顔でそう言いながらTシャツを脱いだ。
「それは新くんもよく我慢できたのもだ。那月さんは祐介くんには言ってないから、ふたりの反応が楽しみだよ」
「なんで私も見せてない前提なんですか!?」
真夕さんのあとに、「私も見せてません」って言おうとしたのに、真夕さんはそのまま話を進めちゃったから思わずツッコミを入れてしまった。
「え? だって那月さん、見せてないですよね?」
真夕さんもシャツを脱ぐ。
「み、見せてませんけど……」
だ、だって、家で祐介くんに見せるのは恥ずかしいし、好きでもない私の水着を見せられても困ってしまうと思ったから……。
「この名探偵を侮ってはいけませんよ那月さん」
真夕さんはメガネをかけていないのに、メガネをクイッと持ち上げるジェスチャーをした。最近ハマっているアニメにメガネをかけた探偵でもいるのかな?
上半身半裸でそのジェスチャーは、なんだかシュールだ。
「え~、私はもう見せてると思ってたのに」
一方の椿さんは、真夕さんとは逆で、既に祐介くんに水着を見せているものだと思っていたらしい。
そう言いながらミニスカートを脱いだ椿さん……。はじめて会った場所はお風呂だったから、椿さんの裸も見たことあるけど、やっぱりスタイルいいなぁ。
「どうしてそう思ったんだい椿ちゃん?」
「だって那月さん、一番最初に好きな人に見てほしいタイプかと思ったので」
「あー確かに」
「うぅ……」
つ、椿さんの言うように、私は好きな人に一番最初に見てほしいタイプではある。だから見せるかどうか、本当に迷った。迷った末に見せない決断をしてしまったわけだけど。
「見せてないと断言しましたが、那月さん。どうして祐介くんに見せなかったんですか?」
「それ、私も聞きたいです! 教えてください那月さん!」
「ち、ちょっとふたりとも、落ち着いてください……!」
私はグイグイと顔を近づけてくるふたりをなんとか宥めた。
ふたりの目からなんだか特別な理由があるのかと思っているようだけど、そんなものはなくて、いたってシンプルな理由だ。
「逆におふたりに聞きますが、付き合ってもいない、ただのルームシェアの関係の男女で、水着を見せて変な空気になっちゃいませんか?」
「あー確かに。それはあるかもですね」
「別の意味で変な空気に───」
「ま、真夕さん!」
何言ってるの真夕さん!? まさかソッチの話に持っていかれそうになるとは思わなかった。
「まぁでも、マジでソッチの展開に持っていったら、今頃祐くんと付き合ってるか」
「つ、付き合う前からそんなことしません! 以前も言いましたが、私は、祐介くんの心も欲しいのですから……」
「那月さん……」
「……」
そんなことをしてしまえば、祐介くんを絶対に困らせてしまう。それだけならまだいい方で、祐介くんの過去の恋愛のトラウマが、その行動によって思い出させてしまったら祐介くんを傷つけてしまうことになる。
パートナーを……大好きな祐介くんを傷つけるなんて、絶対にしたくない。
「それに、もし本当にそういう行為に持っていってしまったら、一番最初に付き合った元カレと同じになってしまいますから……」
……ううん、付き合ってないからそれよりもひどい。
そんなことをして祐介くんと付き合えても、全然嬉しくない。
祐介くんのトラウマを消して、心を通じ合わせてから付き合いたい。
それが私の理想だ。
「すみません。私たち、那月さんの過去のことを失念してました」
「私も……ごめんなさい那月さん」
「いえ、大丈夫ですよ。おふたりが私を思って言ってくれているのはわかってますから。ありがとうございます真夕さん、椿さん」
真夕さんと椿さんは本当に私を応援してくれている。
普段は私をからかったりしてるけど、それもふたりからの友好の証みたいなものと思ってる。
「ヤバい……このお姉さん、マジで天使だ」
「これは女も惚れちゃいます」
「……って、あれ?」
なんだか私を見てボソボソとなにか言っているふたりの格好を見て思った。
「おふたりとも、いつの間に着替え終えたんですか!?」
ふたりは既に水着に着替えていて、いつでもプールに行ける状態になっていた。
「え? 着替えながら話していたからですけど?」
「逆になんで那月さんはまだ服を一枚も脱いでないんですか?」
そ、そうだ! ふたりは話しながら着替えていたのに、私は荷物をロッカーに入れただけで話に夢中になっていたから!
「い、急いで着替えますので、おふたりは先に祐介くんたちと合流してください!」
そう言いながら、私は上着に手をかけた。
「え~、那月さんを待ってますよ」
「そうそう。那月さんの着替えシーンなんて、それこそ永久保存しないと───」
「そ、そんなのいいですから!」
私の着替えをなぜかじっくりと見ようとしていたふたりの背中を押して、ふたりがプールに向かったのを確認してから、私も急いで着替えはじめた。
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