第131話 那月さんに依存してるなーって

 それから一週間ほどが経ち、俺たちはプールにやって来た。

 メンバーは俺と那月さん、マユさんと司と椿だ。

 俺たちが来ているのは、この市内でも有数の屋内プール施設で、色んな種類のプールがある。

 平日だけど夏休みということもあってか、家族連れはそこまで見ないが、学生の姿が多い。

 一足先に着替え終えた俺と司は、入口付近で女性陣を待っていた。

「それにしても、女性陣の水着……楽しみだな祐介!」

「そ、そうだな……」

 こいつ……いきなりだなぁ。

 俺も楽しみなのは変わりないが、さっきからドキドキして仕方がない。

 そのドキドキを少しでも紛らわそうと、俺は司に声をかける。

「というか、司は椿の水着を見てるんじゃないのか?」

「いや、それがな……今日までのお楽しみということで見せてくれなかったんだよ」

「そうなのか?」

「あぁ」

 椿なら買ったその日に司に見せているのだと思ったけど、今回はそうじゃないのか。

「ならめちゃくちゃ楽しみなんじゃないのか?」

「もちろんだ! 椿の水着、早く見たいぜ!」

 テンション高いなぁ。

 司もドキドキしてると思うけど、俺とは違い、ワクワクが勝ってるのかもしれないな。

 二人は付き合ってるから堂々と見ても問題ないけど、俺が那月さんの水着姿を同じように見るのは……ダメだろうなぁ。

「お前はどうなんだよ? 九条さんの水着……見たくないのか?」

「そりゃ見たいよ。見たいに決まってる。だけど……」

 俺はさっき思ったことを司に話した。

「確かに九条さんはあんまりジロジロ見られるの、好きじゃなさそうだもんな。それに童貞の祐介じゃ、あの抜群のプロポーションの九条さんに目が行っちまうだろうし」

「童貞は余計だよ! ならお前は那月さんに視線が吸い寄せられないのかよ?」

「いや、吸い寄せられる」

「やっぱり吸い寄せられるんじゃないか!」

 逆に潔いいけど、彼女がいるのにその開き直りみたいな態度はどうなんだ?

「逆に聞くけどお前、あの誰もが振り向く美貌とスタイルをあわせ持ち、性格も完璧な九条さんに目が行かない男がいると思うか?」

「……思わない」

「だろ? 当然俺は、お前のように特別な感情を持っていないがそれとこれとは別、椿や仁科さんのような同性でも振り向く九条さんを、男が見ないなんてありえないよ」

「た、確かに……」

 彼女がいようが結婚してようが、那月さんが視界に入って何も思わない人はいない。同性のマユさんや椿も常日頃から『可愛い』、『綺麗』と連呼してるし、女性までそう思わせてしまう魅力があるのに、男が那月さんに見惚れないわけがない。それだけ那月さんは魅力的だ。

「俺、改めてとんでもない人を好きになったんだな……」

 俺は言いながら天を仰いだ。

「お前は目だけじゃなく、心も、胃袋まで九条さんに奪われてるからな」

「……自分でも思うよ。那月さんに依存してるなーってね」

 好きになってからは特に、那月さんがいないとダメな状態になっている。

 学校やバイトから帰宅し、那月さんの「おかえり」と笑顔で疲れなんて吹っ飛んでしまう。

 完全に依存状態だ。

「……俺、告白なんてできるのかな?」

 ふと、そんな言葉が口から出た。

 告白して振られたら、那月さんはあの家から出て行ってしまうかもしれない。そうなればまたあの家に一人になってしまう。

 那月さんは『あの家から出て行きたくない』と思ってるそうだけど、もしそうなら那月さんは振ったあとも住み続けてくれるだろうけど、ギクシャクしてしまうのは間違いない。

 俺は改めて、同居人に告白する……その難易度の高さに落胆してしまった。

「ま、いずれはしないといけないだろうな。お前が向こうから告白してくれるのを待ってない限りは、な」

「そんな未来なんて来ないから、俺が頑張るしかないのはわかってるよ」

 那月さんから告白とか……宝くじで一等を当てるよりもありえないだろ。

 それ以前に、那月さんは俺と同じ感情を俺に持ってないし。

「ま、今は焦るな。その前に、『振られ神』のトラウマを乗り越えることが先決だ」

「克服……か」

 また女性を好きになれたから、ちょっとは前に進めてるのは確かだ。

 でもまだ振られた時の記憶が蘇ってしまう時がある。そして蘇ると決まって震えてしまう。

 幸い、那月さんの前では思い出してないんだけど───

「おまたせー!」

 俺が『振られ神』のことで思い悩んでいると、横から聞き慣れた元気な女性の声が聞こえた。

「お!」

「……!」

 声がした方を向くと、そこには水着姿のマユさんと椿がいた。

 ……あれ? 那月さんは?

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