第129話 正直、怖いです

 祐介くんと女子高生があの場所から離れてから、私は真夕さんにさっきの女子高生について尋ねた。

「真夕さん、あの女の人、知ってる人ですか?」

「いえ、直接の面識はないですが、ゴールデンウィークからちょくちょく来ては、ああやって祐介くんに商品の場所を聞いてるんです」

「そ、そうなんですね……」

 よくここを利用する人みたいだけど……それにしても、さっき真夕さんが言った『祐介くんに……』が気になる。

 ま、まさかあの人───

「あのJK、祐くんが好きだったりして」

「っ!」

 私が考えていた悪い予想を椿さんが口に出して、私は反射的に椿さんを見てしまった。

「あ、ごめんなさい那月さん……」

「い、いえ……祐介くん、本当にすごく優しいし、笑顔も素敵ですから、私と同じ気持ちを抱く女性がいてもおかしくないですもんね……」

 あの人の話題は、一度もあがったことはない。

 もしかして祐介くん……あの子が好きだったりするのかな?

 そしてあの子はさっき椿さんが言ったように、祐介くんが好きだとしたら、付き合ったりするのかな?

「……」

 ど、どうしよう……祐介くんが誰かと付き合うと考えると、すごく怖くなってくる。

 もしもあの子と付き合ったら、私は邪魔になっちゃうから、あの家から出ていかなくちゃならなくなる。

 祐介くんの傍から離れたくないし、あの家からも出て行きたくない!

「那月さんもしかして、祐介くんもあの子が好きかもって考えてます?」

「……え?」

「顔が青ざめて、めっちゃ震えてるんですもん」

 真夕さんに私の考えている事を簡単に当てられてしまった。

 椿さんも『那月さんわかりやすいなぁ』みたいな表情をしている。

「そ、そうですね……。正直、怖いです。祐介くんが誰かと付き合うのも、あの家から出て行くのも……」

 その恐怖を少しでも紛らわそうと……目を逸らそうと、私は目をキュッと瞑り、胸の前で片方の手をもう片方の手で包むように握った。

 だけど恐怖はちっともなくなってくれない。

 こうなったら、ダメ元で告───

「いや~、それはないですよ那月さん」

 私が祐介くんへの告白を決意する直前、椿さんが軽く言ってのけた。

「え?」

「那月さんと一緒にいて、他の女になんてうつつを抜かすなんてありえないですよ」

「え……えぇ!? ま、真夕さん、それは、どういう……?」

 ど、どういうこと!? それは、そのままの意味でとらえちゃうと、祐介くんも私がす───

 そこまで考えると、私の顔に熱を出した時くらいの熱さが襲ってきた。

「那月さんのおかげでここまで贅沢な生活をしておいて、いきなり那月さんを追い出すなんて祐介くんはしませんよ」

「それに祐くん、今はまだ誰とも付き合う気はないでしょうし、それ以前に那月さんの好意にも気づいてないのに、あの子のになんて気づくわけないじゃないですか」

「た、確かに……」

 椿さんの言う通り、祐介くんは私の好意にはまったくと言っていいほど気づいてない。物理的に距離感をせばめてるし、最近はボディータッチも増やしてるのに、私ばっかりドキドキしてる。

『誰とも付き合う気はない』って椿さんは言ってたし、それを信じるなら、まだ焦らなくても大丈夫……?

 そ、それに、さっきの女子高生が本当に祐介くんを好きかもわからないし。


「気づいてないのは那月さんもだけど」

「ですよね。二人揃って鈍感なんだから」


「何か言いました?」

「いいえなにも」

「那月さんの気のせいですよ」

「?」

 ん~……確かに二人が何かヒソヒソ話してると思ったんだけど空耳かな?

 店内のBGMもあるし、やっぱり気のせいかな。

「そんなことより那月さん。早く祐介くんと話して来てください」

「え? でもお邪魔じゃ……」

「そんなことないですよ! 那月さんが邪魔だなんて、祐くんが思うわけないです」

 そ、それはわかってるけど、実際に祐介くんの手を止めてしまうし……。

「那月さん、祐くんと話したくないんですか?」

「……その質問はズルくないですか椿さん?」

 祐介くんと話したいか話したくないかなんて……そんなの決まってる。

「あぁ……椿ちゃんにジト目を向ける那月さんもめちゃかわ綺麗……!」

 真夕さんは真夕さんで、なぜか私を見て少し恍惚としてるし。

「ほらほら、那月さんの心は決まってるんですから、私たちのことは気にせず、好きな人と話してきてくださいよ」

 そう言って椿さんは私が持っている、水着が入った紙袋を半ばひったくるように持った。

 私が迷っている視線を二人に送ると、二人は笑顔で頷いてくれて、それで私の心は固まった。

「わ、わかりました。なるべく早く戻ってきますので……!」

「ゆっくりでいいですからね」

「そうですよ~」

 笑顔で手を振って送り出してくれる二人にペコリと頭を下げ、ドキドキしながら祐介くんの元へと歩き出した。

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