第127話 那月さん……エロ……
宮原さんと別れてから、私たち三人はお昼を食べてから書店にやってきた。
その理由は……。
「祐くんいるかな~?」
「この時間なら休憩も終わってるからきっと馬車馬のように働いてると思うよ」
時刻は午後一時半……祐介くんも昼食を食べ終えて午後のお仕事頑張ってるんだ。
「良かったですね那月さん! 祐くんのお仕事している姿を見れますよ!」
「へっ!? そ、そうですね……」
ちょっと前から、お仕事している祐介くんの姿が脳内に映し出されてドキドキしていたから、椿さんに言われてちょっとびっくりしてしまった。
そういえば祐介くんが言っていたけど、祐介くんと出会った日に、ここを元カレと歩いていた私を見ていたんだよね。
うぅ……あの派手な服はもう処分しちゃったけど、あの姿を二日も祐介くんに見られていたって思い返すと、やっぱりちょっと恥ずかしい。
「そういえば那月さんって、元カレとここを歩いていたんですよね」
真夕さんが思い返すように呟いた。
「そうですね。……そっか、真夕さんも見ていたんですよね?」
真夕さんも祐介くんと同じ書店で働いているから、真夕さんにも見られていたとしてもおかしくないけど……あぁでも、翌日に真夕さんと出会って、そんなことを言ってたのを思い出した。
「あの時、祐介くんが元カレの後ろを歩く那月さんに見惚れていて、サボってるんだと思って声をかけたんですよ」
「そうだったんですか。…………え?」
真夕さんがあの日、私を見ていた経緯を知ることができたけど……え? 真夕さん、そのあとなんて言ったの!?
「どうしました那月さん?」
「あ、あの……祐介くんって、わ、私に……見惚れていたんですか?」
私の顔はすぐに熱くなってしまった。
祐介くんが私を見ていたのは知っていたけど、そんなのは知らない!
「あ、はい。それはもう仕事サボってめっちゃ見てましたね」
「っ!」
えぇ!? 嘘! ほ、本当に見惚れていたの!?
あぁどうしよう……私を熱い目で見てくる祐介くんの姿が私の頭の中に……ど、ドキドキがすごいことになってる……!
「那月さん顔真っ赤ですよ」
「す、好きな人に見惚れられていたと知って、平気な顔なんてできませんよ……!」
ゆ、祐介くんが私に見惚れていた……。まだ知り合ってもいない段階だから、多分派手な服を着ていたからで、なんにも思われてないってわかってるんだけど、『祐介くんが見惚れていた』って言葉だけがひとり歩きして私の心を駆け巡って、すごくドキドキする。
「まぁ、あの時の那月さんの服、エロかったですもんね」
「マジですか真夕さん! ……那月さん!」
「み、見せません! というかもうあの服は捨てちゃったからないですよ」
あの元カレと一緒にいる時に着ていた服だもん……思い出したくないから祐介くんと一緒に暮らし始めてから少しして捨てちゃった。
「そっかぁ……真夕さん」
「私もバイト中だったから写真は撮ってないね。というかそれは盗撮だから無理だよ椿ちゃん」
つ、椿さん……真夕さんにおねだりするような視線を向けたと思ったら……そんなに見たかったの!?
でも、どうやら真夕さんも写真は持ってなかったみたい。椿さんにはちょっと悪いと思っちゃうけど一安心。
……それにしても、あの別れた彼───
もうどうでもいいし、彼が私を捨てたおかげで祐介くんと出会えたから、そこだけは感謝してるけど、私をこの隣県に置き去りにした事に少しも罪悪感を抱いてないのかな?
きっと今も他の女の人とお付き合いをしていそうだけど、せめてその彼女さんには少しでも優しくしてあげてほしい。
「那月さん、どうかしました?」
椿さんに声をかけられて、私は嫌な思考から離脱する。
「え?」
「なんか、これから祐くんに会えるのに、ちょっと暗い……というか不機嫌になってるから……」
「あ、ご、ごめんなさい! その……あの日一緒にいた元カレを思い出していまして……」
「あぁ、あのクズですね」
ま、真夕さん……すごいムスッとしてる。
そしてストレートすぎる感想……。
「ホント最低な男ですよね。那月さんをここに置き去りにしたなんて!」
椿さんも怒ってくれてる。
おふたりの気分を少し害してしまった申し訳なさがあるけど、私のために怒ってくれて、やっぱり嬉しいな。
「那月さん! そんなヤツのことは記憶から完全に消去して、早く祐くんのところへ行きましょう」
「わっ、椿さん! な、なんで腰を……!」
普通肩を持って押すんじゃないの!?
腰……というかウエストを持っているから……そこはわりと弱点だからちょっとゾクゾクする……。
「あ、間違えました。それにしてもほそ~い!」
「ま、間違えたのなら、早く離してくだ……んっ」
椿さんはウエストを持ってただけで、力加減も変えてないのに、私が体を動かしてたら変な声が出ちゃった!
「ご、ごめんなさい那月さん」
「い、いえ、大丈夫ですよ。そ、それよりも早く行きましょう」
「は~い!」
椿さんは私と腕を組んで早足で歩き出した。
私も、早く祐介くんに会いたかったから自然と椿さんのスピードで歩いていた。
「那月さん……エロ……」
真夕さんから離れていたので、その声は私と椿さんには届いていなかった。
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