第126話 円満の秘訣が服を着て歩いているような夫婦

「あるご夫婦……ですか?」

 宮原さんは私のこの問いに「うん」と答えた。

 あの仲の良い宮原ご夫妻がお手本にするご夫婦って……どんな方たちなんだろう?

「はい! そのご夫婦はどんなご夫婦なんですか?」

 椿さんは右手を挙げて宮原さんに聞いていた。もしかして、新くんとの参考にしようとしてるのかな?

 わ、私も……祐介くんともっと仲良くなりたいから、興味はある。

「そうだな……その夫婦はさっき話に出てた、妹の親友夫婦なんだけど……一言で言えば円満の秘訣が服を着て歩いているような夫婦……かな?」

「そ、それってどういうことですか?」

 椿さんがさらに宮原さんに聞いていたけど、私もすごく興味がある。

 真夕さんは……ちょっとだけ興味がありそう。

「俺もその夫婦とは数年会ってないんだけど、あの夫婦はマジで笑顔が絶えないんだよ。もう付き合い始めてからだと……えっと、十五年くらいになるはずなのに、まるで付き合いたてのカップルみたいな感じでさ」

「ふむふむ……」

「いつも手を繋ぐか腕を組むかしてるし、俺たちや他の友達がいても、毎回二人の世界に入るしイチャイチャしてたな」

「え? それってただのバカップルなんじゃ……」

「つ、椿さん……!」

 それを言うのはさすがに失礼なんじゃ……。

 わ、私もちょっとだけそう思っちゃったけど、それと同時に少し羨ましいとも思っちゃった。

 心と心が通じあったイチャイチャもしたことがないから……ゆ、祐介くんと、そういうイチャイチャ、してみたいな。

「那月さん、祐介くんのこと考えてますね?」

「……へっ!?」

「あ! 那月さん顔赤くなってる~。可愛い~!」

「も、もう……やめてくださいよぉ」

 うぅ……本当に祐介くんのこと考えてたから何も言い返せない。

「あはは。まぁ確かにバカップルかもしれないけど……でも二人がイチャイチャしてるのを見ても、不思議と心がほっこりするんだよ」

「そうなんですか?」

 程よいイチャイチャってことなのかな?

「その二人が揃っているのが当たり前……にこにこしてくっついてるのが当たり前って、俺たちが思ってるかもしれないけどね」

「そんなご夫婦が……」

 きっと当時から、宮原さんだけじゃなくて他のご友人にもそんな風に思われてたんだ。

 すごく素敵なご夫婦なんだろうな。

「でも、あの二人はそれを当たり前と思ってないんだよ」

「そ、それってどういう意味ですか!?」

「相手が常に隣にいることを本当に特別なことだと思っているんだ。そしてどんな些細なことでも感謝を伝えることを忘れない。あの夫婦は二人ともとても優しいからそれが自然と出来てしまうんだよ」

「……」

 私が誰かとお付き合いをしてきた中で、今までされたことがない。

 特別な存在と思われていたのかも今となっては疑わしいし、家事をしてもお礼なんて言われたことないし、むしろそれが当たり前と思われてきた。

 でも、祐介くんは違う。

 ご飯もいつも美味しそうに食べてくれるし、毎食お礼を言ってくれる。

 家事のお手伝いも進んでしてくれるし、私に何かあった時は本当に心配してくれる。

 祐介くんとお付き合いする……これが叶えば、本当に、宮原さんがお手本にしているご夫婦のような……私の理想の恋愛が出来る!

「九条さん? どうしたの?」

「……へ?」

「いや、なんか悲しそうな顔をしたり、決意に満ちた顔をしたりしてたからさ」

「ほ、本当ですか!?」

 わ、私……無意識で表情をコロコロ変えてたんだ! ち、ちょっと恥ずかしい……。

「これはアレですね! 絶対に祐くんのことを考えてたに違いありません!」

「那月さんってわかりやすいから」

「つ、椿さん! 真夕さん!」

 わ、私ってそんなにわかりやすいのかなぁ……?

 あぁでも、地元でもメグとミキに言われたことがある……。

「九条さんの好きな人……もしかして、誕生日ケーキを贈った人?」

「は、はい……。今はその人と一緒に暮らしてるのですが……」

「へぇ、ルームシェアしてるんだ」

 宮原さんには私の恋愛遍歴や祐介くんとのことは話したことがなかったんだ。

 まぁ、元々店員さんとお客の関係だしね。

「はい。彼はとても優しくて、その彼と結ばれたら、宮原さんがお手本とされているご夫婦のような……私の理想の恋愛が出来ると思って……」

「そっか。俺もその彼とうまくいくことを祈っているよ。頑張ってね」

「は、はい! ありがとうございます宮原さん!」

 応援されたことが嬉しくて、宮原さんに笑顔を見せたら、宮原さんはにこって笑ってくれたんだけど、椿さんと真夕さんは驚いていて、真夕さんはまた「うわ可愛い!」と言っていた。

 その直後、宮原さんのスマホに電話がかかってきて、どうやら奥様からで、怒らているのか宮原さんは相当焦っていて、電話を切ると私たちに簡単に挨拶をしてすぐにお店に戻って行った。

 宮原さんの奥様にはお会いしたことがないけど、もしかして奥様の方が強い……のかな?

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