第124話 助けて……祐介くん

「もぅ……真夕さんと椿さん、絶対に私で楽しんでるよね」

 私はトイレで手を洗っている最中、そんな愚痴をこぼしていた。

 あの二人と一緒にいるのは楽しいよ。あんな風にイジられるのだって、メグとミキと一緒にいる時以来だから、ちょっと嬉しくもある。

 だけど、あの水着はさすがに……。

 私は二人が持ってきた水着を思い出して顔が熱くなり、鏡を見たら頬が赤くなっていた。

 あんなえっちな水着で人前に……ましてや祐介くんの前になんて立てるわけないよ……。

 祐介くん、今日もバイトなんだよね? 頑張ってるのかな?

 私はバイト中の祐介くんを想像して、ドキドキしてまた顔が熱くなった。

 祐介くんのバイト先はこのショッピングモールの中の本屋さんだから……会いに行ける、んだよね?

 ち、ちょっと……ちょっとだけ覗いても、いいのかな?

 真夕さんたちと合流したら、お願いしてみようかな?

 手洗いを終えて、トイレから出ると、二人組の男性が私に声をかけてきた。

「お姉さん綺麗だね」

「ひとり? なら俺たちと遊ばない?」

「えっ!?」

 まさか……ナンパ!?

 でも、トイレから出てきたばかりなのに……もしかして、トイレに入る前、真夕さんたちと離れてからつけられてたの!?

「ねえねえどうかな? 絶対に楽しませるからさ」

「てかお姉さん、ホントに可愛いね」

「いえ、あの……お友達を待たせていますので」

 私は咄嗟に本当のことを言ったんだけど、それがいけなかった。

「え? マジ!? じゃあそのお友達と一緒に俺らと遊ぼうよ!」

「みんなで遊んだ方が楽しいからさ」

「結構です! 私には、好きな人がいるので……」

「でもまだ付き合ってないんでしょ?」

「なら問題ないじゃん。遊ぶだけだからさ」

 絶対に嘘だ。

 私の過去の経験上、この人たちは私の元カレたちと同じ雰囲気をしてる。だから『遊ぶだけ』じゃ絶対に終わらない。

 その証拠に、彼らは私の胸や下の方をにやにやしながら見ている。

 祐介くんもたまにそういう視線を向けてくるし、今は……たまにだけど私を意識してほしいからお風呂上がりにちょっと露出が高い服を着ることもあるけど、祐介くん以外にそういう視線を向けられるの、すごく嫌だ。

「ところでお姉さん、その手に持ってる袋……それ、水着店のだよね?」

「どんな水着を買ったの? てか、それ見たいなー」

「っ!」

 二人は私が持っている袋をいやらしい目で見て、そのまま私を見た。

 確かにあのお店のロゴが入った袋だけど、それだけで気づくなんて……。

 もしかして、その周辺をウロウロしてたとか!?

 どちらにしても、絶対について行くわけない!

「見せるわけありません。これは、好きな人に少しでも振り向いてもらいたいから買ったんです」

 祐介くんに少しでも私を好きになってもらいたいから……好意を持ってもらいたいから祐介くんの心が欲しいけど、まずは好きになってもらわないといけないから、思い切ってビキニを買ったのに、こんな人たちに見せるわけないでしょ!

「そんなにその彼が好きなんだ」

「はい」

「じゃあさ、その水着がお姉さんに似合っていて、本当にその彼がお姉さんを好きになってもらえるか、俺らが見て判断してあげるよ」

「……はい?」

 この人たちは、何を言ってるの?

「お前それナイスアイデアじゃん!」

「だろ? だからさお姉さん、行こうよ」

 最低なアイデアを言ってきた人は、友人に得意げな表情を見せると、私に笑顔を見せて私の手首を掴んだ。

 触れられた瞬間、全身がゾワゾワして怖気が走った。

「っ! いやっ、離して!」

 このまま連れて行かれたら、絶対に嫌な目に合わされるし、真夕さんと椿さんにも迷惑をかけてしまう!

 それは、それだけは絶対に嫌だ!

 助けて……祐介くん───

「……俺の知り合いに何してんだ? テメーら」

 心の中で祐介くんに助けを求めた瞬間、私の背後から男性の低い声が聞こえてきた。

「……え?」

 その人は見た目は私の年齢より少し上くらいの人で、私よりも背が高く、ベージュ色の短髪が目立つイケメンさんで……この人が私を『知り合い』って言ったは嘘じゃなく本当に知ってる人だった。

「あなたは……宮原みやばらさん!」

 このイケメンさんは、私が祐介くんのお誕生日にケーキを買ったお店……『ドゥー・ボヌール』の二号店店長……宮原 拓斗たくとさんだった。

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