第122話 知らないの!?

 私が他の水着を見始めて五分くらい経った頃、椿さんが一着の赤い水着を持って私のところにやって来た。

「那月さん、これなんてどうですか?」

「どれですか? ……って、これは───」

 私は椿さんが持ってきた水着を見て、目を見開き頬もすごく熱くなってしまった。

「これなら絶対に祐くんはすると思うんです!」

「布面積が小さすぎませんか!?」

 そう……椿さんが持ってきたのは、所謂マイクロビキニで、見えてはいけない部分を最小限隠せるくらいしか布がない。というか最早もはやそれ、紐じゃない!?

「でもこれなら祐くんは絶対に那月さんを意識すると思うんですよ」

「た、確かにこれは意識……してくれると思いますけど、絶対に別の意味でですよね!?」

 こ、こんなえっちな水着で祐介くんの前に立ったら……別の意味で意識されちゃう!

 私は祐介くんに、外見ではなく内面で意識してほしいから……こんな自分から誘うようなこと……恥ずかしくてできないよ!

 私は顔全体が赤くなるのを感じながら、恥ずかしくて下を向いてしまった。

「那月さん……やっぱりウブだなぁ……」

「那月さん! 私も見つけましたよ」

 前方から真夕さんの声が聞こえて、私はそちらを見ると、真夕さんも一着のビキニを持っていた。

「これなんてどうですか? 絶対に祐介くんの気を引くこと間違いなしです」

 私は真夕さんの持ってきたビキニを見る。

 椿さんの持ってきたビキニよりは布面積があるし、これは普通のビキニ……んん?

 私はすぐに違和感に気づき、じと~っとした目で真夕さんを見た。

「あの、真夕さん……」

「なんですか?」

「この水着……布の先が見えるのですが……」

 真夕さんの持ってきたビキニの布の先……お店の景色がぼんやりと見える。どう見ても普通のビキニじゃないよこれ!

「あ、これスケスケのビキニです」

「なんでそんなものがあるんですか!?」

 こ、ここってショッピングモールにある普通の水着屋さんだよね!? なんでこんなえっちなお店にあるような水着があるの!? しかもなんで普通に商品として並んでるの!?

「さあ? 店側の誤発注じゃないですかね?」

「……真夕さん、なんでそんなにスケスケが好きなのですか?」

 真夕さんと初めて会ったあの日、真夕さんと一緒にランジェリーショップに行ったけど、その時にもスケスケの下着を勧められた。

 なんでそんなにスケスケを推してくるの?

「え? スケスケってそそられるんじゃないんですか?」

「なんで疑問形なんですか!?」

 真夕さんの趣味じゃなかったっぽいけど、じゃあどこで調べたのかな?

 ……まさか、祐介くんの趣味!?

 ゆゆ、祐介くんにそんな特殊な趣味を持っていることに驚きだけど、それ以上に祐介くんと真夕さんがそんな話をしていることがさらに驚きだよ!

 で、でも、どんな趣味を持っていたとしても、私は祐介くんが好きだし、好きな人の趣味は受け止めないと!

 私は改めて真夕さんが持っているスケスケのビキニを見る……そしてそれを着て祐介くんの前に───


 むりむりむりむりっ! 恥ずかしくて私、死んじゃう!


 すごく熱くなっている顔をぶんぶんと左右に振る。

「何を想像したんですか那月さん?」

 い、言えないよそんなこと!

 なんだか真夕さんもちょっと引き気味で聞いてきてるし、もし言っちゃったらさらに引かれちゃう。

 そ、そうだ。これは念の為に確認しないといけないよね!?

「あの、真夕さん?」

「なんですか那月さん?」

「……それって、そういうのって、祐介くんは……好きなんですか?」

 そう、本当に祐介くんの趣味なのかを聞かないと。

 私の頭の中でどんどん話が進んじゃってるけど、それはあくまでも『(仮)』が付く話で、真夕さんにちゃんと聞かないと、暴走して買っちゃったら絶対に恥ずかしい思いをするのは目に見えてるから。

 果たして、真夕さんの答えは……!?

「え? 知らないですけど」

「知らないの!?」

 思わずタメ口でツッコミを入れてしまった。

 で、でも、とりあえず祐介くんが特殊な性癖ではないということが証明されたから一安心かな。

 私がちょっと安心していると、まだマイクロビキニを持っている椿さんがスっと近づいて、私にこう耳打ちした。

「でもこれ着たら、絶対にその日の夜は燃え上がると思いますよ」

「っ!」

 私の顔はまたすごく熱くなった。

 も、燃え上がるって……絶対にアッチの話……だよね!?

 ゆ、祐介くんが……好きな人が求めてきてくれるのは……嬉しくないわけではないけど……。


「……必要ない、です。わ、私は……祐介くんの、心も欲しいので、色仕掛けなんかで、祐介くんの気を引きたくなんてない……です」


 付き合ってもないのに、付き合えるかもわからないのに、今からこんな水着なんて買えないよ。いやそもそも恥ずかしくて買えないし着れない!

 それにこんな手で祐介くんとお付き合いするのは本意じゃない! 祐介くんとは、本当に……心が通じ合った本気の恋愛をしたい!

「那月さん……可愛すぎます!」

「本当にね」

「も、もう! 遊んでないで、早く水着を選びますよ!」

 長居をしてると、お夕飯を作る時間が少なくなっちゃうし、まだまだ二人に顔を熱くさせられそうだから、私は真面目に水着を選ぶことを促し、何着か試着させてもらって、ちょっと恥ずかしいけど、ビキニを購入した。

 祐介くん……気に入ってくれると嬉しいな。

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