第110話 絶対にダメですからー!

 私が祐介くんのことを考えて一喜一憂してると、真鍋さんがテンション高めに祐介くんの名前を口にした。

「それにしても、那月ちゃんの好きな祐介くん……かわいかったわよねぇ!」

「……え?」

 か、可愛いって……それってどういうこと?

「あ、それあたしも思った! あの純朴そうなのがたまらないわ」

「え? ……え!?」

「今度彼に会ったら、色々と味見を───」

「だ、ダメですーー!」

 私はたまらずに、盛り上がる三人組を止めた。

 あ、味見って……味見って何をするつもりだったの!?

「ゆ、祐介くんはダメです! 絶対にダメですからー!」

 どんなことをするのかはわからなかったけど、どう考えても嫌な予感しかしなかった。

 祐介くんは女性とお付き合いしたことがないって聞いてるし、仮にもしマッチョな人たちが祐介くんに色々しちゃったらと考えると止めずにはいられなかった。

 だ、大丈夫だと思うけど、万が一味見をされた祐介くんが、新たな扉を開いちゃったら、私のことを好きになってくれないから、それだけは断固として阻止しないと……!

「那月ちゃんってホントに祐介くんが好きなのね~」

「……へ?」

「もちろん冗談に決まってるじゃない」

「じ、じょうだん……?」

「そうそう。那月ちゃんの大事な人をとったりなんかしないわ~」

「……ほ、本当ですか?」

 私はジト~っとした目で三人を見た。お客さんにしていい目ではないけど、お友達だからいい……よね?

「本当よー。だからそんなに睨まないで」

「わ、わかりました。ごめんなさい……」

「謝るのは私たちの方よ。ごめんなさいね那月ちゃん」

 真鍋さんに続いて、津乗さんと千代原さんも謝ってくれた。

「まぁ冗談はさておき、ここにいるみんなは全員那月さんの恋を応援してるから、頑張ってね」

「あ、ありがとうございます勇さん!」

 皆さんの暖かい笑顔を見て、本当に応援されてると思った私は、頭を下げてお礼を言った。

「祐介くんがダメとなると……昨日勇さんに馴れ馴れしい態度をとってた彼を味見しちゃおうかしら?」

「え、真鍋さんあんなのが好みなの?」

 私も津乗さんの意見に内心で頷いちゃった。

「性格はクソみたいだったけど、彼、顔だけは良かったじゃない?」

「確かにそうねぇ」

 私も前からイケメンだとは思っていたけど……でも、やっぱりそれだけかなぁ。

 もっと優しくて思いやりのある男性がいいなぁ。そう、例えば祐介くんのような……。

「那月さんや、今は祐介くんのことを考えておるな?」

「へっ!? ど、どうしてそれを……」

 シゲさんはびっくりした私を見て「ほっほっほっ」と笑っていた。

「那月ちゃんわかりやすいわよね~。頬を赤くして笑ってるのだから、降神くんのことを考えてるってすぐにわかるわ」

 優美さんに指摘されて、私は自分の顔をペタペタと触る。……か、顔が熱いよ。

「うふふ、可愛いわ那月ちゃん」

「ゆ、優美さん……」

 ど、どうしよう……皆さんが言うから、ちょっと祐介くんに会いたくなってきちゃった。

 でも、私のバイトもまだ二時間近くあるし、祐介くんも学校のあとはバイトだから、あと六、七時間は会えない……。

 そ、それに彼女でもない私がわざわざ電車に乗ってショッピングモールに行ったら、祐介くんは私の気持ちに気づいちゃうかもだし……。

「那月さん、何を考えているんだい?」

「え!? えっと……」

「降神くんのことだとは思うけど、もしかして彼に会いたいとかかな?」

「っ!?」

 ど、どうしてここの人たちはこんなにも鋭い人ばかりなの!?

 私の反応を見て、皆さん笑ってるし……。

「那月ちゃん、わかりやすいもの」

「じゃな。初々しいのぉ」

「普段の那月ちゃんももちろん可愛いけど~」

「祐介くんに恋する那月ちゃんは……」

「も~っと可愛いわぁ!」

「み、皆さん……!」

 うぅ……顔がさらに熱く……熱が引かない。

「バイトが終わったら会いに行っちゃいなさいな」

「ゆ、優美さん……でも……」

「大丈夫。降神くんはびっくりすると思うけど、それ以上に嬉しいはずだから」

「で、でも……変に思われないですかね?」

「そこはほら、気分を変えてショッピングモールで夕飯の材料を買いに来たとか言えば大丈夫よ。降神くん、那月ちゃんの気持ちに全然気づいてないみたいだから」

「な、なるほど……」

 つまりお夕飯の材料を買いに来たついでに、祐介くんの様子を見に来たって言えば、そこまで不自然な流れではない……気がする。

 私の気持ちに全然気づいてないのは確かだけど、もうちょっと私を意識してくれてもいいと思うんだけどなぁ。

 祐介くんの反応を見ると、ドキドキはしてるみたいだけど、それは単に女性と付き合ったことがないから、手を繋いだり髪を乾かしてもらう行為もしたことがないからであって、私を意識してるって感じではなさそうだし。

「じ、じゃあ……バイト終わったら、ちょっといってきます」

「ええ。外は暑いから気をつけるのよ」

「はい」

 このあと、昨日勇さんに失礼な態度をとっていたあの男性がやって来て、彼が何か言う前に真鍋さんが彼に近づいて強制的に一緒の席でお茶をしていた。

 その際に、『那月ちゃんは昨日の彼しか見えてないから、あなたが何をしても無駄……もしなにかしようとしたら……全力で潰すわ』言っていて、普段優しい御三方なのに、怒ると怖いと思いながらも、心の中で感謝をした。

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