第104話 帰ろっか!

「祐介くん、おまたせ!」

 午後四時過ぎ、バイトが終わった那月さんが俺とシゲさんの座る席にやって来た。当然ながら私服だ。

 今日の那月さんの私服は、白のシャツに青のスキニージーンズといった超シンプルな装いなんだけど、超絶めちゃかわ美人でスタイル抜群の那月さんが着ればものすごく映える。

 家に帰っても特にやることもなかったから、こうしてシゲさんと、あとマッチョな人たちとも少し話をしながら店内で過ごした。

 今はマッチョな人たちは帰って、シゲさんが俺に付き合ってくれている。

 というか、あのマッチョな人たち……濃かったなぁ。

 でもなんか素を見せてない感じだったけど……まぁ初対面だからそんなもんか。

 ちなみに那月さん狙いの人もまだ何人かいるんだけど……相変わらず那月さんを見てるな。

 いや、なんか俺も見られてる気がする。

 俺と那月さんのやり取りを見逃さないように……何か真実を確かめるように目を凝らしている。

 というか遠慮がなさすぎだろ……。

「お疲れ様で……お、お疲れ様。那月さん」

 那月さんに敬語はやめるように言われてるんだけど、なかなか抜けない。どうも年上の人には自然と敬語を使ってしまう。

 だけど、那月さんともっと仲良くなりたいから、頑張って自然とタメ口で話せるようにならないと。

「お疲れ様じゃのぉ那月さん」

「ありがとうございますシゲさん」

 シゲさんもバイトを頑張った那月さんを労い、那月さんも笑顔でこたえている。仲がいいなぁこの二人。

「さてと、那月さんも来たし、わしもそろそろ帰ろうかの」

「あの、シゲさん!」

 シゲさんは「よっこいしょ」と言って立ち上がり、会計をしようとレジに向かう背中を俺は呼び止めた。

 シゲさんに、どうしてもお礼を伝えたかったから。

「なにかの? 祐介くん」

「ありがとうございました! 長時間、俺の話し相手になってくれて」

「気にせんでくれ祐介くん。わしも君と話が出来て楽しかったよ。良ければまたこのジジイの話し相手になっておくれ」

「は、はい! ぜひ!」

 シゲさんは笑顔で俺たちに手を振り、会計を済ませて帰っていった。

「シゲさん……本当にいい人です……だね」

「うん」

 シゲさんが出ていったこの店の出入口を二人で見ていると、優美さんが声をかけてきた。

「那月ちゃん、降神くん。二人も早く帰らないとお夕飯、食べるの遅くなっちゃうわよ」

 そうだ。夏だからまだまだ太陽は沈んでないけど、もう夕方だ。

 これから買い物にも行くから、早くしないとな。

 俺は椅子から立ち上がり、改めて優美さんと、カウンターにいる勇さんにお礼を言った。

「優美さん、勇さん。ありがとうございました。コーヒーも、スパゲティもとっても美味しかったです」

 お腹も空いていたのでカレースパゲティを注文したんだけど、これもめちゃくちゃ美味しかった。

「喜んでくれたようで俺たちも嬉しいよ。またいつでも来ていいからね」

「そうよ。ちょっと遠いかもしれないけど、近くに来たらぜひ寄っていってね」

「は、はい!」

 仁科ご夫妻、本当に優しい人たちだなぁ。

 コーヒーも食べ物も美味しかったし、マジでちょくちょく来ようかな?

「じ、じゃあ祐介くん……」

 なんだか遠慮気味に俺を呼んだ那月さん。

 なんか変だなと思った俺だったが、次の瞬間、那月さんが予想外の行動を起こす。

「え!?」

「か、帰ろっか!」

 俺の心臓は今までにないくらい、痛いほど跳ね、脳が痺れた。


 なぜなら、那月さんが俺の手を握ってきたからだ!

 し、しかも……こ、恋人繋ぎで!

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