第102話 目が離せない

 メイド服に着替えて出てきた那月さんを見て、俺はそのあまりの美しさに思わず息を呑んだ。

 オーソドックスなクラシカルタイプのメイド服がここまで似合う人はほとんどいないんじゃないか? 実際にメイド服を着ている人を見るのは初めてだから基準なんてないけど、それでも俺は、那月さんに完全に目を奪われている。

 黒のスカートの裾には白のフリル、エプロンにもフリルが付いていて、那月さんの腰から下にはリボン結びをしたかのような白い紐が見える。

 胸元にも黒の大きなリボンが見えている。那月さんが言っていたのはアレだな。

 胸元に目が行くということは、那月さんの胸の膨らみにも目が行くといくことで……露出なんて皆無なのに、胸部の膨らみははっきりとわかってしまう。

 ポニーテールにしていた髪は解かれている。飲食店では長い髪を束ねたり、まとめたりするのが一般的な気もするけど、メイド服姿の那月さんをさらに際立たせるための、今回限りの特別仕様なのかもしれない。

 いつも見ている髪型の那月さんのはずなのに、いつも以上にドキドキして目が離せない。

 フリルの付いたカチューシャも言わずもがな似合っている。

 可愛い、綺麗……そんな月並みなことしか思えないほど、俺は那月さんに魅入ってしまっていた。

 今さらだけど、俺……こんな完璧めちゃカワ美人を好きになってしまったんだな。

 俺、那月さんに振り向いてもらえるのかな?

「ほっほっほ、あの姿の那月さんを見たのは二回目じゃが、やはりべっぴんさんじゃのぉ」

 そう言ってシゲさんはゆっくりと腰を上げ、席から離れた。

「し、シゲさん……どこへ!?」

「このようなジジイのことなど気にするでないよ。あとは若いもの同士で……というやつじゃ」

「え……?」

 ど、どういうことだ? 処理が追いつかない。

『あとは若いもの同士で……』って、確かお見合いの席での常套句だよな? なんでそれをシゲさんが……?

 って、なんでシゲさん、那月さん狙いの奴らの方に向かってるんだよ!? ま、まさか自分から絡みに行くんじゃ───

「な、なんだよ。じいさん……」

 あぁ、彼らの前で立ち止まった。何を考えているんだあの人は!?

 と、とにかくシゲさんを助けなきゃ───

「なぁに、君らが怪しげな行動をせんか見張っておるのじゃよ。それとも、?」

「ちっ……!」

「え?」

 なんかシゲさんから物騒なセリフが聞こえたと思ったら、男が怯んでいる。

 え? 一度懲らしめられたことがあるのか!?

 というかシゲさんって、一体何者……?

 で、でも、シゲさんがカバー出来るのは一グループだけ……他のグループは……。

「って、ええっ!?」

 ほ、他の那月さん狙いのグループに、店の隅にいたマッチョな人たちが……!

「な、なんだよあんたたち!?」

「いやな、よくここに来るのを見て、君らと是非話をしたいと思ってたんだよ」

「そうそう。君らもあた……んんっ! 俺らの存在には気づいてたろ? ならここらでお互い親睦を深めようや」

「あ、これここの裏メニューのプロテインだけど飲む?」

 マッチョな人たちの迫力に気圧されて、那月さん狙いの男たちは動くことが出来ない。

 というかここ、裏メニューなんてあるんだ……。

 あのプロテイン、美味しいのかな?

「那月さん、これを降神くんに」

「わ、わかりました」

 カウンターの方で勇さんと那月さんの声が聞こえてそっちを見たら、那月さんがコーヒーが入っているであろうカップを勇さんから受け取り、それをお盆に乗せているところだった。

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