第100話 滅多に見られない光景と、見たくなかった現実
「九条が戻ってきたとき、あなたも、そして皆さんも滅多に見られない光景を目にすると同時に、見たくなかった現実を突きつけられると思いますので、見られる際は、心の準備だけはしておいてください」
どういうことだ? 滅多に見られない光景と、見たくなかった現実?
それをこんなに堂々と、まるでこれから起きる未来を予知しているかのような……。
「は? 意味わかんねー。でも滅多に見られない光景ってのは気になるから、待つわ」
「そうですか。私はお伝えしましたので」
「?」
話が終わると、勇さんに失礼な態度をとっていた人や、その他の人が、「滅多に見られない光景だってよ」、「あのおっさんの言ってる意味はわかんねぇが楽しみじゃね?」、「でも見たくなかった現実ってなんだ?」、「さあ? おっさんが適当に言ってるだけだろ」、「だな。あー早く那月ちゃん戻ってこないかなー?」と、客同士の席が離れているからか、店内全体に聞こえる声量で喋っている。
『おっさん』って……なんでもっと勇さんを敬えないんだ? 理解が出来ん。
「やれやれ……見たくなかった現実はさっき垣間見たはずなんだけどね。ありえないと思っているのか、それとも単に忘れてしまったのか……」
「え?」
勇さんから嘆息とともにそんなセリフが聞こえた。
初めてあった人だけど、なんか……勇さんがあまり言わなさそうなセリフじゃないか? イメージにない。
それから勇さんは小声で、俺にだけ聞こえる声で言った。
「ああ、彼らはコーヒー一杯で何時間もここにたむろするのでね。俺たちも少々辟易していたことろなんだよ」
「な、なんとなくわかります」
あんなマナーも何もなってない人たちが何時間もいると、落ち着いてコーヒーも飲めやしない。
「まぁ、それも今日までだと思うけどね」
今日まで?
「それは、どういう───」
「すまないね降神くん。あと十分ほどで持っていけると思うから、もう少しだけ待っててほしい」
「わ、わかりました」
俺は勇さんに会釈をすると、シゲさんの待つ席に戻った。
優美さんはいなくなっていて、店内を見渡しても優美さんの姿が見えない。どこに行ったんだろう?
というか、注文を取りに行く人がいないんだけど大丈夫か!?
あ、でも今はコーヒー一杯で何時間も居座るチャラい人たちと、相変わらずコーヒー(?)を飲んでいるマッチョな人たちしかいないから大丈夫……なのか?
「ただいま戻りました」
「おお、おかえり祐介くん。どうじゃった? 勇くんはよい人じゃったろ?」
「そうですね。とても紳士的でかっこよくて、好感が持てました」
那月さんがいい人たちのいる職場に巡り会えてよかった。紹介してくれたマユさんには感謝だな。
「……ですが、なんでコーヒー一杯でここまで時間がかかるのかなとは思ってます。やはり豆を切らしている物を注文してしまったんですかね?」
やっぱり那月さんが買い出しに行ってしまったのか? だとしたら那月さんのおすすめを頼むんじゃなくて、普通に豆があるコーヒーを注文すれば良かった……。
あとで那月さんには謝らないと。
「ほっほっほ、おそらくじゃが、アレの準備に少し手間取っておるんじゃろうの。祐介くんが心配することはないから、安心して待っていなさい」
「? は、はぁ……」
シゲさん、その口ぶりからして何か知っているみたいだけど、マジでなんなんだ?
教えてくれそうにないから、黙ってコーヒーが来るのを待つしかない、か。
そしてそれから待つこと五分。店の奥へと続く扉がゆっくりと開かれた。
「……え?」
音がした方を見ると、そこには那月さんがいたんだけど、那月さんの格好を見て、俺は思考がフリーズした。
那月さんカマーベストじゃない!
あれは…………メ、メイド服!!?
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