第85話 お互いを照らす光に
とても温かい、まるで太陽のような光。
そんな光の奥から、声が聞こえた気がした。
『ずっといますよ。あなたのそばに』って。
家族のものとは違うけど、とても心地いいその光に気を取られてしまい、次に家族の方を見たら、光はもうほとんど見えなくなっていた。
光は小さくなっていく……けど、完全にはなくなっていない。
そして、今度は家族のいる方の光から声が聞こえた。
『那月、私たちはずっとあなたを見守っているわ』
『離れていても、俺たちはずっとお前と共にいるよ』
お母さん……お父さん……。
『なっちゃん、よく今まで頑張ってきたね』
『さぞ辛かったじゃろう……。那月が辛い時にそばにいてやれなんだワシらを許しておくれ』
おばあちゃん……おじいちゃん……。
久しぶりに聞いた家族の声、そしてかけられた優しい言葉に、夢の中の私は泣いた。子どものように、周りなんて気にせずに。
泣いている間に、私の後ろの光はその輝きを増した。どこまでも優しく包み込んでくれるように……。
そして、私が少し落ち着いた頃、遠くにある家族の光からまた声が聞こえた。
『いいかい那月。お前の後ろにある光……それだけは決して見失わないようにしなさい』
『その光は那月の求めているものを与えてくれるわ。私たちが与えてあげられなかった分も、たくさん、たくさんね』
ど、どういうこと!? お父さん、お母さん!
『逆にその光が輝きを失いそうになった時は、なっちゃんが光になってあげるのよ』
『お互いを照らす光になるんじゃ。それは那月にしか出来ないことじゃからな』
私が、光に? それは───
問いかけようとした矢先、視界がぐにゃりと歪んだ。
これは……空間自体が歪んでるんだ。
夢が終わる。
その直前、近くで私を照らしてくれる光を見ると、その中央部分だけ真っ黒に染まっている点があった。
やがて空間が完全に無くなると、私の耳に小鳥の鳴き声が聞こえてきた。
「あ、さ……?」
私、いつの間に眠ってたんだろう?
まだ目を瞑っているけど、意識は現実にあるのを理解してる。
身体は……まだちょっとダルいけど、昨日ほどじゃない。
これなら明日には完全に治るかな。
夢のことははっきりと覚えている。
久しぶりに聞いたお母さんたちの声……夢とはいえとても嬉しかったな。
それにしても、あの光は一体なんだったんだろう?
心地よくて安心する……もっと浴びていたいとさえ思った、そんな光。
お父さんはその光を見失うなって言ってたけど、そもそも夢だし見失うなと言うのが無理な───
「あ、れ……?」
私、右手で何かを握っている……?
なにこれ?
いや、それよりも一体いつから?
私はゆっくりと瞼を上げ、ぼやける視界で自分の右手を見ると、それは人の手だった。
「…………へ?」
寝起きでまだ熱が残っているから、理解するのにちょっとだけかかったけど、確かにこれは人の手……だよね。
そしてゆっくりと視線を移動すると、そこには男の人の頭頂部があった。
「ゆう、すけくん?」
間違いない。これは祐介くんの頭、そして手だ。
ということは……。
「…………っ!?」
状況を理解し、私は一気に覚醒した。
え? え? こ、これって……私が祐介くんの手を握っている!?
いつから? もしかして寝ている時に!?
で、でも、祐介くんがその気になれば私の手を外して自分の部屋で寝ることが出来たはず……。
それなのにここで寝ているということは……祐介くんは自分の意思で一晩ここにいてくれたの!?
え、なんで? ……私の、ため?
ち、ちょっと待ってよ。なんでこんなにドキドキしてるの!?
この胸の高鳴りは、風邪が原因じゃないのははっきりとわかる。
私は、祐介くんにドキドキしてる。
今までの人で、ここまでドキドキするなんてこと、これまで一度もなかった。
『いいかい那月。お前の後ろにある光……それだけは決して見失わないようにしなさい』
『その光は那月の求めているものを与えてくれるわ。私たちが与えてあげられなかった分も、たくさん、たくさんね』
私は夢の中でお父さんとお母さんに言われたことを思い出していた。
まさか、夢で私を近くで照らしてくれた光の正体は───
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