第84話 那月の見た夢、那月の過去

 夢を……見ている。

 これは……元カレの、最初にお付き合いをした人だ。

 私の初カレは高校一年の秋、向こうから告白されて付き合った。

 隣のクラスだったけど、頻繁に私のクラスに来ていて、私もたまにおしゃべりをする間柄だった。

 人気の少ない体育館裏に呼び出されて告白された時はびっくりした。

 びっくりしたけど、私は彼に悪い印象は持ってなかったし、話も面白くて、一緒にいて楽しいと感じていたのでその告白を受け入れて付き合うことにした。


 付き合って二日後、家に呼ばれてそういう行為を求められて、抵抗はしたけど力でかなうはずもなく……無理やりはじめてを奪われた。


 その翌日、今でも親交のある友達のメグとミキが、「アイツ女をセックスをする対象としか見てない」という情報を私に教えてくれた。

 私はそれを聞いてすぐに別れた。

 優しくて話も面白くて、告白も真剣だと思ったから付き合ったのに……。

 それから何度も別の人たちに告白されたけど、その一件が尾を引いて高校生の間に彼氏を作ることはなかった。


 高校を卒業して少しして、同じコンビニでバイトをしていたひとつ年上の人に告白をされて付き合った。

 卒業して、ちょっと恋に前向きにならなきゃって思ってたし、この人はいい人だと思ったから付き合ったんだけど、本性を見せたのはそれから少ししてからだった……。

 その彼は時間にかなりルーズで、デートの約束をしても遅刻は当たり前、ドタキャンすることもしばしばあり、それを注意すると逆ギレされてしまい、最後には喧嘩別れになった。


 その次に付き合った人に同棲を提案された。

 少し悩んだけど、高校を出てしばらく経つし、いつまでもおじいちゃんとおばあちゃんに甘えていられないと思い、私は同棲を了承。

 そうして新たに私の家となった場所は、散らかり放題だった。

 彼は身なりは整っていたけど要はそれだけで、家のことが何も出来ない人だった。

 家の中を見た瞬間、汚部屋が広がっていて、私はちょっと引きながらも掃除していった。

 もちろん彼は何もしてくれなかった。

 そしてそんな人と長く続くはずもなく、一ヶ月で別れた。


 それからも何人かとお付き合いをしたけど、祐介くんにはじめて会った日に説明した感じの人ばかりで、男運ゼロでこんな人たちとしか巡り会えないのなら、「もう恋愛なんてしなくていいのでは?」と思いはじている時に、今度こそいい人だと思って付き合ったのが、私を隣県に置き去りにした人だった。

 付き合って少しして、私は「ああ、……また見抜けなかった」と思ってしまった。

 彼は命令、強要が強い人で、服や化粧、日常生活における時間までも私に強要してきた。

 細かく色々言われてきたけど、「もっと派手な服を着ろ」、「寝る時以外化粧を落とすな。不細工なんだよお前は」って言われたのがキツかった。

 でも、私にはこの人以外に頼る人がいなかった。

 おじいちゃんとおばあちゃんも数年前に他界し、この人の元を離れれば私は一人になってしまう。

 おじいちゃんとおばあちゃんが住んでいた家は遺してくれているけど、それでもここを離れなかった理由は二つある。

 一つは彼にその家の住所が特定される危険性がある。

 彼は別れるまでは執着が強い傾向があったから、もしも私が逃げてもいつかはバレると思ったから。

 そしてもう一つの理由は……一人になりたくなかった。

 あそこにはおじいちゃんとおばあちゃんと一緒に暮らしていた頃の楽しい思い出がいっぱいある。

 私には一人で暮らしていけるだけの生活力もある。

 だけど、一人でいると誰もいない辛さにいつか押し潰されそうになっていたかもしれない、楽しかった頃を思い出し、泣いてしまうかもしれなかった。

 私は、ただ誰かと楽しく生活をしたいだけなのに、心から生活を楽しいと感じたことは、おじいちゃんたちと暮らしていた時以来、なかった。

「やだ……いか、ないで……よ」

 おじいちゃんとおばあちゃん、それに両親もいないのはわかってる。

 でも、だけど……。

「ひと、りに……しちゃ、いや……」

 両親も、おじいちゃんおばあちゃんも遠くに離れていく……光がどんどんと失われて、真っ黒な闇が私を覆いつくそうとする。

 手を伸ばさないと、私は本当に一人になってしまう。

 子どものように泣きじゃくりながら、私は家族がいる方へ必死に手を伸ばし続けた。

 そんな時、私の後ろから別の光が差し込んだ。

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