第67話 かっこいいとも、思ってしまった
『まあ大変! 大丈夫なの那月ちゃん!?』
祐介くんが部屋から出てからすぐに、電話をかけた相手……優美さんが出てくれて、風邪で休むことを伝えたらすごく心配された。
「だ、大丈夫です。それよりもすみません。休んでしまって……」
『いいのよ気にしないで。シゲさんや他の人はちょっと残念がるかもだけど、那月ちゃんの体調が一番だもの。
「ありがとうございます」
優美さんが優しい言葉をかけてくれる。風邪を引いたのも久しぶりだけど、こうやって体調を崩したことを本当に心配されるのも久しぶりだ。
『ところで家には降神くんはいるの?』
「はい。私を心配してくれて、学校を休んでくれました……」
祐介くんに学校を休ませてしまったのは正直すごく申し訳ないって思うんだけど、でもやっぱり、すごく嬉しいって気持ちの方が強かった。
祐介くんを見送るまでは風邪を悟られないようにしようと気力を振り絞っていたけど、歩くのもちょっと辛いって思う程だったから……。
だから祐介くんが学校に行ったのを確認して気が抜けた時はどうしようかと思った。身体に力が入らなかったし、でもこの暑さの中、ずっと廊下に座りっぱなしだったらもっと酷いことになるかもしれない。
そんな考えに頭が支配されようとした時、学校に行ったはずの祐介くんが戻ってきたんだ……。
『そう……。那月ちゃんは申し訳ないと思うかもだけど、風邪が治るまでは降神くんに頼っちゃいなさい。そしたら彼も嬉しいと思うから』
私はさっきの、私を心配してくれた祐介くんと、そして私に有無を言わさずお姫様抱っこをした祐介くんを思い出してしまい、さらに顔の熱が上がってしまった。
そんな祐介くんを見て、ちょっと……かっこいいとも、思ってしまった。
今までは……気が利くし気配りもできるし、家事のお手伝いも率先してやってくれて、でもただの同居人として一歩引いた対応……私の心にズケズケと踏み込んでこなくて……それに何より優しくて……。
でも、かっこいいなんて思ったことは……ないことはない……かもしれないけど、ここまではっきりと思うことは今までなかった。
『……那月ちゃん?』
「……え?」
『ああ、よかったわ! 返事がないから心配しちゃった』
「ご、ごめんなさい。ちょっと考えごとを……」
そうだった。病人の私が何も話さなかったら電話越しの優美さんにさらに心配をかけてしまう。考えるのは後にしないと。
『あら、もしかして降神くんのこと?』
「え!? いや、その……そ、そうです! 今日のゆうすけくんのご飯はどうしようかなって……」
『うふふ。そういうことにしとくわね』
祐介くんのことを考えていたと優美さんに簡単に言い当てられてしまった。私ってそんなにわかりやすいのかな?
で、でも、ご飯をどうするのかだって大事なことだもんね。祐介くんは料理は出来ないし……デリバリーになるのかな?
『なら、こっちで作って持っていくわ』
「え!? そ、そんな……悪いです……けほ」
優美さんから驚きの提案をされてしまった。正直嬉しいけど、お店もあるのに……。
『那月ちゃん。そんなに遠慮しないで。那月ちゃんが心配なのは私たちも同じ。シゲさんをはじめ、あなたを待ってるお客さんもたくさんいるんだから』
「は、はい……」
私目当てのお客さんがそんなにいるかはわからない。中には言い寄ってくる人もいるし。
けど……うん。このまま回復が遅くなってもお店に迷惑がかかるだけだから、ここは優美さんのご厚意に甘えることにしよう。
『じゃあ、お客さんがいっぱい来るお昼前には持っていくわね。道は……真夕にでもナビしてもらいましょう』
「すみません……」
そういえば、真夕さんとはしばらく会えてないから、私が風邪を引いたって聞いたら心配しそうだなぁ。
『なんでもすぐに謝らないの。那月ちゃんはいっぱい頑張ってくれたんだから、ね?』
「はい……」
『さて、あまり長話をするとしんどいでしょ? だからそろそろ……』
それに、オープンの準備もしないとだから、おそらく今は勇さんが一人でやっているはず。
「わかりました。じゃあ、今日はその……お願いします」
本当はもう一度謝りたかったけど、謝ったら優美さんに優しく諭されそうだし、今日はお世話になることは決まったから、謝るよりも「お願いします」と言った方がいいと判断した。
『ええ。じゃあまた後でね。ゆっくり休むのよ』
「はい……。勇さんにもよろしくお伝えください。それでは失礼します」
優美さんは『はーい』と言って電話を切った。
私は耳に当てていたスマホを枕のそばに置いて、さっきまで曲げていた腕をだらんと伸ばした。
うう……関節が痛いしダルい。電話するだけでも少し疲れちゃった。
私が仰向けで深呼吸していると、部屋のドアがノックされた。どうやら祐介くんが帰ってきたみたい。
『那月さん、入ってもいいですか?』
「はい。どうぞ」
祐介くんは『失礼します』と言ってドアを開けた。
その手には冷却シートやタオルに巻かれた氷枕っぽいもの、それと薬も持っていた。
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