第62話 ういやつよのう~

 俺は今、ラウンジで涼みながら司と一緒に那月さんと椿さんが出てくるのを待っていた。

 しかし、まさか司がいるのには驚いたな。このカップルは二人ともお風呂が好きで、このスーパー銭湯も頻繁に利用してるとは思っていたけど、俺たちが利用する日にもいるとは……ちょっとだけ思ってたけど、まさか時間帯までかぶるとは思ってなかった。

 それからは一緒に湯船に浸かり、話をして、女性陣より一足先に風呂から上がってラウンジで待っている。

 俺は床に座って、テーブルに二人分の瓶に入ったコーヒー牛乳を用意している。一つはもちろん那月さんの分だ。

 自分のもまだ開けてなくて、那月さんと一緒に飲もうと思ってとってある。

 一緒に飲んだ方がより美味しく感じれると思ったから……。

 そして司はというと……。


「おおおいい、ゆ祐介えぇ、いいつになったたら、ううわさの九条ささんはで出てくるんんだよよよぉ~?」


 このようにバグったAIのような声を出していた。

 それもそのはず、司はマッサージチェアを使っていて、ちょうど今は司の背中のツボを叩くように刺激しているから、このような声を出しているのだ。

「那月さんは普段から風呂の時間はけっこう長い方だからな。待ってたら出てくるよ」

「おおおうぅぅ。そそそれにに、つ椿とと、なな仲良くなってるるかもしてないいからな」

 ちょっと聞き取りづらいなと思いながらも俺は司と会話を続ける。それにちょっと面白い。

「でも椿さんとは会ったことないし……」

「いいいや、椿はは、ぜぜ絶対にに、は話かけてて、なな仲良くなってるるってて。あ~気持ちいい~」

 どうやらマッサージチェアは揉みほぐしに変わったみたいだ。司の声もバクったAIから気の抜けた声にチェンジした。

「あ~早く噂の九条さんに会ってみたいぜ~」

「お前それ、椿さんが聞いたら怒るんじゃないか?」

 同棲している彼氏が他の女性を気にしてるとか、彼女からしたらいい気分にはならないだろう。

「マジで興味本位だけだって~。俺は椿一筋だからな~」

「それならいいけどさ。それ、椿さんの前でも言ってないよな?」

 司は椿さんにマジ惚れしているのは椿さん本人もわかってるとはいえ、さすがに他の女性の話をポンポン椿さんにはしてないだろ。

「言ってるけど~?」

「言ってるのかよ!」

 しかも何さらっと当たり前みたいに言ってんだよ!?

「「恋愛に懲りた」と幾度となく聞いた祐介に「すげぇ美人」、「ドキドキしてる」と言わせる人だぜ~? そんな美人を見たくない男なんていないって~。椿だってめちゃくちゃ言ってたしな~」

「椿さんも!?」

「お~。あいつ美人が好きだからな~。噂の九条さんに会いたいって家で何度も言ってたから、絶対話しかけて仲良くなってるって~」

 た、確かに椿さんは美人に目がないって本人から聞いたことがある。今まで学校以外で二人に会ったことがあまりなかったから、実際には見たことがないけど、那月さんのような美人を見ると、椿さん自ら那月さんに話しかけにいってるかもしれない。

 そしていつも以上のテンションで那月さんと話をして、すっかり仲良くなってたりして……。

 椿さんって普段からフランクだから、男でも女でもすぐに話しかけて仲良くなるんだよな~。

 まぁ、男に話しかける時は必ず司も一緒にいるって言ってたし、変に勘違いされたことはないとも言ってたから安心なんだけどさ。

「あ~早く出てこないかな~? マジでどれだけの美人なのか早く見たいぜ~」

「……」

 これで椿さん一筋って言ってるんだもんな……。ちょっと疑いたくもなるけど、学校で二人はいつも一緒にいるから本当に仲良しカップルなんだよな。

「どうした祐介~? なんでそんな疑いの眼差しを向けてんだ~?」

「いや、なんでもないよ」

 どうやら知らず知らずのうちに司をそんな目で見ていたようだ。

 多分あれだ。司は那月さんを芸能人とかと一緒な感じで思ってるんだろ。それだったら俺も理解できる。

「心配しなくても~、九条さんを取ったりしないから~」

「なっ……!!」

 ちょっと待て、こいつ今なんて言った!?

 なんで余計な一言がついてるんだよ!

「あっはっは~、顔が真っ赤だぞ祐介~」

「う、うるさい! まだ風呂上がりで火照ってるだけだ!」

 実際めちゃくちゃ顔が熱い。冷房なんか効かないくらいに熱い。

「はっはっはっ~、ういやつよのう~」

 こいつ……明らかに俺の反応を見て楽しんでるな! 無駄に殿様口調になってるし。

 でもやばいな。もういつ那月さんが出てきてもおかしくない時間だ。とにかく今は気持ちを落ち着けて、那月さんが出てくる前にこの火照った顔をどうにかしないと───

「祐介くん。お待たせしました」

「な、那月さん……!」

 そう思ったのも束の間、タイミングが悪い時に那月さんが帰ってきて、俺は顔の熱が冷めやらぬまま、那月さんを見てしまった……。

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