第60話 何もないってマジですか!?

「え? あ、あの……」

 いきなりそんな質問をされて混乱している私。

 ゆうくん? それってやっぱり、祐介くんのこと……だよね? もしかして柏木さんは、祐介くんのお友達?

「あ、すみませんいきなり……。えっと、降神祐介くんって知ってますか?」

「は、はい」

 やっぱり柏木さんは祐介くんのお友達なんだ。

「実は私、祐くんと同じ専門学校に通っていて、彼とは友達なんです」

「そ、そうなんですか!?」

 祐介くんのお友達だというのは予想してたけど、同じ専門学校に通っている人だったんだ。

「はい! それで祐くんから九条さんのことを聞いていたので、一度お会いしたかったんです!」

「は、はあ……」

 柏木さんは目を輝かせながら私を見てくる。まるでずっと会いたかった有名人にあったような眼差しを私に向けてくる。

 そのグイグイ来る柏木さんに、私はたじろぐ事しか出来ない。

 祐介くん……一体柏木さんになんて言ったのかな?

「うわぁ……祐くんから聞いていたけど、私が思ってたよりずっと綺麗な人だなぁ。すっぴんでこれだけ可愛いとか反則でしょ! それに身体は細いのにおっぱいおっきいとか羨ましすぎる! 祐くんは毎日こんな美人見てんの!?」

「あ、あの……柏木さん?」

 わ、私をすごく見てくる。視線もすごくグイグイ来るなぁ。

「あ、あのあのっ……祐くんと何もないってマジですか!?」

「え……ええっ!?」

 いきなりすごいところから切り込んできたなぁ。祐介くんのお友達だから、いろいろ聞かれるのは予想出来たけど、こういう時の最初の質問って、『祐くんとの暮らしはどうですか?』とかだと思ってたから。

「祐くんもなんだかんだ男ですから、九条さんのようなスタイル抜群なめちゃかわ美人とひとつ屋根の下で暮らしていて、オオカミになったりしないんですか!?」

「し、しません! あの、ちょっと落ち着いてください!」

 他の人が見てるから、それ以上大きな声で祐介くんとのことを言わないでーー!

 私は暴走気味な柏木さんをなんとか落ち着けさせることが出来た。

 柏木さんといい真夕さんといい……祐介くんの異性のお友達はパワフルな人が多いなぁ。

「あはは……すみません、つい」

「い、いえ、もう気にしていませんので」

 本当はまだちょっと顔が熱いけど。

「それで、祐くんとは何もないん、ですよね?」

 あ、その質問は続くんだ。でも真剣なお顔だから、冗談で聞いてるわけではなさそう。

「そ、そうですね。祐介くんは私に何かを求めたりはしてこず、対等に、いつも私を尊重してくれていて、とても楽しく過ごせていますよ」

 私は祐介くんとの暮らしを思い返していると、自分でもびっくりするくらいすらすらと言葉が出てきた。

「は~さすが祐くんだなぁ。私だったら絶対九条さんを襲ってるのに」

「ええ!?」

「あ、もちろん冗談ですよ冗談。えへへ」

 ほ、本当かなぁ……。どうもさっきから私の胸をチラチラと見ている気がするけど。

「もう一つ質問、いいですか?」

 柏木さんは咳払いをして、真面目な表情に戻してから言った。

 可愛くて愛嬌もあるから、柏木さんもきっとモテる……あ、彼氏さんいるんだよね。

「祐くんとの生活は、楽しいですか?」

「はい、とても。……出ていきたくないと思うほどに」

 私は柏木さんの質問にすぐ答えた。

 祐介くんの誕生日に思った、出ていきたくないという感情は、一ヶ月半以上経過した今でも全く変わってない……ううん、むしろ強くなってる。

「え? 九条さん、出ていっちゃうんですか!?」

 だけど柏木さんは、私が近いうちに祐介くんの家から出ていくと解釈してしまったみたいで、慌てた表情で顔を近づけてきた。ち、近い……。

「ち、違いますよ! 祐介くんの家から出ていく予定なんてありませんから」

 私がそう言うと、柏木さんはとても安堵した様子で、距離を離してくれた。

「いつまでも祐介くんの優しさに甘えて、ずっと居続けるわけにはいかないとは思ってるんです。早く出ていかなきゃって思ってもいるんですけど、祐介くんとの生活が楽しくて、気づいたらもう三ヶ月近くも暮らしています」

 最初こそ少し緊張していたけど、慣れてしまったらあっという間で、こんなに楽しい生活を手放したくないって思うようになってしまった。

 でももし、祐介くんが自らのトラウマを克服し、彼女さんを見つけたら、その時は何がなんでも出ていかなくちゃ、いけないよね……。

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