第58話 早く入りましょう!

 那月さんとスーパー銭湯に行くと約束したその週の土曜日の夜、俺たちはついにお目当てのスーパー銭湯にやって来た。

「うわぁ……大きい建物ですね」

「そうですね」

 CMやホームページで建物自体は見ていたけど、実際に目にするとやっぱり違うな。

 駐車場も数十台停められる広さがあるし、今日はそのほとんどに車が停められていた。

 今日は土曜日だから、明日も休みの社会人や家族連れが多そうだ。

「祐介くん! 早く入りましょう!」

「わかりました。ここまで歩いてちょっと汗もかきましたし、早く流したいですね」

 ここは自宅から徒歩二十分程の場所なので、夜とはいえムシムシするので歩いていて汗をかいていた。

 帰りはタクシーで帰ることも那月さんに伝えたのだけど、最初は渋っていた。

 まぁ、タクシー代って意外とするし、初乗り料金ならまだしも、距離があるからちょっとメーターが上がってしまう。

 俺も那月さんも節約に力を入れていたけど、お風呂上がりにまた汗をかいてしまうのは本末転倒なので、ここは致し方なくってやつだ。

 秋になれば、帰りも歩いて帰れそうだけどな。

 ……それまで、那月さんはうちにいるのかな?

「どうしました祐介くん?」

「……え?」

「ボーッとしてましたけど、なにか考えごとですか?」

「い、いや、銭湯楽しみだなーって思っただけですよ」

「ですよね! さ、早く入りましょう」

 そう言って那月さんは一足先に建物の中へと入っていき、俺は何度か軽く頭を振ってから那月さんに続いた。


「涼しいです~」

「本当ですね」

 施設内に入ると、外のジメジメした空気から一変、涼しい風が俺たちをもてなしてくれた。

 冷房がガンガンに効いていて、ここは天国かと思えるほどだ。

 俺たちは靴を脱いでロッカーに入れ、改めて施設内を眺める。

 出入口から真っ直ぐ行くと開けた空間が広がっているようで、おそらくあそこがラウンジなんだろう。

 そして俺たちの近く、左側にあるのが券売機で、あそこで入浴券を買うみたいだ。

 右を見るとカウンターらしき場所があり、女性のスタッフさんが立っているので、買った入浴券をあの人に渡せば入ることができるみたいだ。

「早速お風呂に入っちゃいましょうか」

「そうですね。早く券を買いましょう」

 ラウンジにも行ってみたいけど、まずはお風呂だ。このベタベタした汗を早くなんとかしたい。

 俺と那月さんは入浴券を購入し、それをカウンターにいる人に渡した。

「はい確かに。それではごゆっくり」

 そう言って店員さんは笑顔で言ってくれた。

「では那月さん。また後ほど」

「はい。行ってきますね祐介くん」

「あ、ゆっくりでいいですから、のぼせない程度に楽しんでくださいね」

 あれだけ楽しみにしていた那月さんなんだ。急かしてしまったら申し訳ないし、俺もラウンジでくつろぎたいから、那月さんには俺のことは気にせずにお風呂を楽しんでもらいたい。

「ありがとうございます祐介くん。それじゃあ」

「はい」

 そうして笑顔で手を振る那月さんを見送り、俺も『男湯』と書かれた青ののれんを潜った。

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