第52話 約束をおぼえていますか?

「うまぁ……!」

 那月さんの作ってくれた誕生日のスペシャルメニューに夢中に舌鼓を打っていると、那月さんが笑顔で俺に話しかけてきた。

「祐介くん。以前した約束を覚えてますか?」

「約束ですか?」

 俺はすぐに脳内の記憶を引っ張り出して、那月さんが言っている『約束』を思い出した。那月さんに言わせてしまう前に思い出せてよかった……!

「もちろん覚えてますよ。俺が二十歳はたちになったら、一緒にお酒を飲むって約束ですよね?」

「はい。覚えていてくれてありがとうございます」

「いえいえ……」

 思い出すのにちょっとだけ時間がかかったのは言わない方がいいな。この笑顔を曇らせてしまうかもだし。

 那月さんは笑顔のまま立ち上がり、冷蔵庫へ向かい、開けた。

「じつは、今日のために用意したお酒があるんですよ」

「え?」

 俺が驚いている間に、那月さんは冷蔵庫から一本のボトルを取り出した。

「那月さん……それ……」

「はい。これが今日のために用意したワインです」

「っ!」

 まさかワインを用意してくれているなんて思ってもみなかった。

 てっきりスーパーやコンビニで売ってあるような缶チューハイでお酒デビューをするものだと思っていたので、ここまで用意してくれた那月さんに驚きと嬉しさが込み上げてきた。

「飲みやすいものを選んだつもりですので、きっと祐介くんのお口にも合うはずですよ」

「で、ですがそれ、高かったんじゃ……」

 俺にワインの価値なんてわかるはずもないのだが、なんとなく、けっこうな値段のものだという考えが浮かんだ。

 飲みやすいイコールいいぶどうを使用しているはずだから、……い、一万円とかしたんじゃないか!?

「二千円以内で買ったものなので高くないですよ。だから安心してください」

「そ、そうなんですね……」

 ワインってもっと高価なものってイメージあったけど、それくらいの値段のもあるんだな。

「今から飲んでみますか? それとも食後にしましょうか?」

 俺は顎に手を当てて考える。

 どっちにしようかな? 食中だとあまりワインの味を確かめることは出来ないよな。でももしワインが俺の口に合っていない場合、食べ物でワインの後味を消すことも可能だ。

 だけど、せっかく那月さんが俺のために選んでくれたワインだ。ちゃんと味わいたい。

 それに、那月さんが作ってくれた料理をワインの後味消しにしたくない。この料理もしっかりと堪能したいから。

「じゃあ、食後に……」

「わかりました。ではワインはもう少し冷蔵庫で眠らせておきますね」

 笑顔でそう言って、那月さんはワインを冷蔵庫へと閉まい、また席に着いた。

 それからはまた楽しくおしゃべりをしながら、那月さんが作ってくれた特別な夕食を楽しんだ。

「そうだ。ケーキも買ってきたので後で食べましょうね」

「……はい!」

 まさかケーキまで用意してくれているなんて……まだまだ楽しみは尽きないな。

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