第50話 いつもこうなんですか?

 お昼前、私は祐介くんのお誕生日パーティーに必要な物を色々買うために外に出た。

 まだ五月上旬なのに陽射しが強い……。

 それに二人だけだから『パーティー』になるかわからないけど、でも祐介くんが喜んでくれたらいいな。

 まず最初にやってきたのはスーパーだ。

 今日祐介くんには好きな物をいっぱい食べてもらいたいから、腕によりをかけて作らないと!

 一番好きって言ってたトンカツは外せないよね。……今日はちょっと多めに買っちゃおうかな?

 私はいつもなら二パックを買うんだけど、今日は三パック買うことにした。

 それから……あ、そうだ。お味噌がもう少なくなってきてたから買わなくっちゃ。それからお野菜と、あとお弁当に使う物と……そうだ、ボディーソープも少なくなってきてたんだった!

 家で使っている消耗品が少なくなっていることを思い出して、色々カゴに入れていたらいつの間にかけっこうな量になっていた。

 持てなくはないけど、ちょっと重いなぁ。

 こんなとき、祐介くんがいたら率先して持ってくれ……。

 そこまで考えて、私は頭をぶんぶんと振った。

 今日は祐介くんが主役の日なんだから、そんなことをさせるわけにはいかないよ!

 それに、今までだって、元カレたちと一緒に来ていてもこれくらいの重さの荷物は全部一人で持ってたんだから、大丈夫大丈夫!

「よし!」

 私は気合を入れてカゴを持とうと腕に力を入れた瞬間───

「お姉さん。良ければ一緒に持ちましょうか?」

「え?」

 そんな声が後ろから聞こえてきた。男の人? でもボーイッシュっていうか、年上や同年代の男の人の声には聞こえなかった。

 私は振り返り、声をかけてきた人を見る。すると……。

「ま、真夕さん!」

 そこにいたのは、私がバイトしている喫茶店の一人娘で、祐介くんと同じショッピングモール内にある書店でアルバイトをしている女性、仁科真夕さんだった。

「ずいぶんと買い込みましたね那月さん。これ、一人で持つの大変でしょ?」

 真夕さんはカゴに入っている物をしげしげと見て言った。

「うう……で、でも大丈夫ですよ! 以前もこれくらいの重さのは持っていましたので」

 ちょっと休み休みに運んでたら問題ないし、真夕さんにも心配かけたくないので、私はもう一度気合を入れてカゴを持とうとした。

「え? 真夕さん?」

 すると、真夕さんが二つある持ち手の片方を持った。突然のことに少し混乱する。

「一緒に持ちますよ。さすがにこれを一人で持たせるにはいきません」

「で、ですが、これだけ買ったのは私なので、真夕さんが手伝っていただかなくても……」

「祐介くんがいないんですから、ここは協力プレイでいきましょう。那月さんだって、帰って料理するのに、ここで体力を使い切るわけにはいかないでしょ?」

 それは、確かに。休み休みに運んだとしても、きっと疲れてしまうのは目に見えている。

「で、ですが、真夕さんだってこのあとバイトでは……?」

 もしそうなら、バイト前の真夕さんにこそ余計な体力を使わせるわけには……。

「確かにバイトですが、平日なんでそこまで忙しくならないから大丈夫ですよ。だからほら、行きましょう」

 どうやら真夕さんも譲る気はないみたい。

 ここで問答をしていたらお料理する時間もなくなって、真夕さんのバイトの時間も迫ってきてしまう……。

「わかり、ました」

 だから私は、真夕さんには悪いと思いながらも、真夕さんの厚意に甘えることにした。


 真夕さんと一緒にカゴを持って家に帰っているけど、やっぱり二人で持つとあまり重くない。

 真夕さんは重くないかな? 顔をちらっと見ても疲れた様子はないけど、私に気を使って表情に出てないだけなんじゃ……!?

 家までもう半分は超えてるから、そろそろ私だけで持っても大丈夫だと思うから、真夕さんに離すように言わないと。

「あの、真夕さん───」

「那月さんって、いつもこうなんですか?」

「え?」

 真夕さんに「もう大丈夫」と伝えようとした直前、真夕さんがそんなことを言ってきた。その言葉がどれを指しているのかわからなかった私は固まってしまう。

「いつもこうやってなんでも一人でやろうとしてるんですか?」

「そ、それは……」

 私は答えることが出来なかった。

 元カレたちが手伝ってくれないのが普通になっていたからというのもあるけど、両親がいなくなってからは「私がしっかりしないと」って思うようになっていった。

「祐介くんにもこんな感じなんですか?」

「祐介くんは家事を手伝ってくれてますよ。とても助かってます」

「自分の家なんだから当然ですけどね。これで那月さんに頼りっきりだったらお仕置きですよ」

 ここで真夕さんは咳払いをひとつして、続けて言った。

「そんな肩肘張らずに、私にだって頼ってくださいよ。友達なんですから」

「…………」

「あれ? え? も、もしかして私たちって友達じゃなかったんですか!?」

 真夕さんのショックな叫びで、私は我に返った。

 いけない! ぼーっとするのではなく、ちゃんと言葉でもリアクションでも、何かで返さないと真夕さんを傷つけてしまう。

「そ、そんなことありませんよ! 真夕さんが私をお友達と言ってくれたことが嬉しくて、それから同時に驚いてしまっただけですから」

「一緒に下着を買いに行った仲なんですから、私はその時から那月さんとは友達だと思ってましたよ」

「それって初対面の時ですよね!?」

 ほとんど出会った時から真夕さんは私をお友達だと思ってたってこと!? ……そう考えると、嬉しいな。

「あはは! いいですねそのツッコミ。……まあとにかく、私にも頼ってくださいよ那月さん。遠慮なんか不要です」

「はい。……ありがとう真夕さん」

「お! 少し敬語が取れましたね! 好感度が上がった!?」

「そうですね。少し」

 本当は大分だいぶだけど、少し照れくさくて誤魔化してしまった。

「やった! 那月さんがタメ口で話してくれるように、もっと那月さんと仲良くなりますよ!」

「私も、もっと真夕さんと仲良くなりたいですから、これからもよろしくお願いしますね」

 それはもちろん本心だったので、私は真夕さんに満面の笑みを向けた。

「うわ可愛い! こちらこそよろしくです那月さん!」

 それから私は、真夕さんと楽しくおしゃべりしながら家に向かった。

『友達』というワードが出た時から、地元の友達のことを少し考えながら……。

 もしまとまった休みが取れたら、一度向こうに戻ろうかな。

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