第49話 今日の夜は……

 学校に着くと、司と椿さんが既に来ていて、俺に気づくと二人とも笑顔で手を振ってくれた。……椿さんはややオーバーだなぁ。

 ノーリアクションだとさすがに悪いので、手を挙げといた。

 そして席に着くと、二人が俺のところにやって来た。

「おはよう祐介。誕生日おめでとう」

「祐くんおっは~! 誕生日おめでとう!」

「おはよう。ありがとう二人とも」

 向こうにいる時はあんな噂のせいで誕生日すら憂鬱だったのに、今はこうして祝ってくれる友達がいる。嬉しいかぎりだ。

「九条さんだっけ? その人からは言ってもらえたのか?」

「ああ。朝起きたら言ってくれたよ」

「あー、祐くんにやにやしてる~」

 俺が今朝のことを思い出して口の端をを吊り上げていると、椿さんがすかさずそんなことを言ってきたので、俺は我に返った。

「し、仕方ないだろ……! 見た目がタイプな女性に、朝イチで笑顔で『おめでとう』って言われて、嬉しくない男なんかいないって……」

 それに今日はご馳走を作ってくれて、さらに一緒にお酒を飲む約束もしているんだから、今晩が楽しみで仕方がない。

「しかし、『恋愛に懲りた』って言い続けている祐介が、女性関係でこれだけ嬉しさを表現するなんてな」

「ねー祐くん、本当に写真ないの~?」

「な、ないって。あったら見せるって」

 那月さんに許可を貰ってからだけどね。

 だからそんなジト目で見ないでよ椿さん……。

 そんな椿さんは、ジト目をやめたと思ったら、ちょっとにやにやした笑顔で司の二の腕あたりをつんつんしだした。

「つーくん」

「どうした椿?」

「噂の九条さんを見たいからさ、今日祐くんの家にお邪魔しちゃう?」

「え!?」

 マジで!? 二人がうちに来るのか!?

 嫌とかではない。むしろ四人でバースデーパーティなんて絶対に楽しいこと間違いない。

 だけど───

「やめとけよ。祐介だって今日は九条さんと二人で過ごしたいはずだし、いきなり知らない二人がやって来たら九条さんだって困るだろ」

 那月さんも二人分の料理しか用意してないと思うし、仮に今から那月さんに二人が来るって伝えたら、那月さんは笑顔で了承し、追加で食材を買って調理するだろう。

 だけどそれだと那月さんの負担が増えるし……。


 ……それに司の言う通り、今日の夜は那月さんと二人でいたい。


 別に那月さんに惚れたとかではないが、今夜は……うん、二人だけで過ごしたい。

 はは……。俺が女性に対してこんな気持ちを抱くなんて、高校生までの俺なら考えられなかった。

 ちょっとは前に進めてる……のかな? だとしたらそれは那月さんのおかげだな。

「言ってみただけだよ。さすがに私も二人の邪魔をするつもりなんてないよ」

「邪魔って……付き合ってもないのに邪魔もなにもないだろ」

 確かに二人で過ごしたいとは思ったけど、別に邪魔だなんて思ってないのに。

「ま、そんなわけだから、九条さんにたっぷり祝ってもらえよ」

「う、うん。ごめん二人とも」

「気にしないで。思いつきと冗談で言っただけだから」

「そうそう。だから謝るなよ」

「……ありがとうな。司、椿さん」

 二人はニッと笑ってみせた。カップルになると、笑い方も似るのかな?



「そうそう。俺たちからもプレゼントがあるんだよ」

「え!?」

 二人の笑みを見て笑っていると、司がそんなことを言うもんだから驚いてしまった。

「え? なにその反応。もしかして祐くん、私たちがプレゼント用意してないとでも思ったの?」

「そもそも貰えるなんて思ってなかったんだよ。去年も……」

 去年だって「おめでとう」って言われただけで、プレゼントなんて貰ってない。もちろん言われただけでも嬉しかった。

「去年は知り合って間もなかったから……。でも今年は違うだろ?」

「そーそー。祐くんは私たちの大事な友達なんだから、用意してるって!」

「というわけで、はいこれ」

 司がリュックから取り出したのは、包装された縦長長方形の箱だ。受け取ると随分軽いな。

「あ、ありがとう。開けていい?」

「もちろんだ」

 俺は司の言葉に一度首肯し、包装紙を丁寧に外し出す。

 そして箱も開けると、中から出てきたのは……。

「これ、ボールペン?」

 表面が白色の綺麗な三色使えるボールペンだった。

「おう。消え物も考えたんだけど、どうせなら長く使えるものにしようって椿と相談してな。ボールペンを使う機会が増えるからってことで選んでみた」

「……」

 俺は司の言葉を聞き、ボールペンをゆっくり掴む。

 これ、やっぱり表面は金属になっている。それにこの重量感はいつも使っている安物のボールペンにはない。

 俺はノートを開き、その端にくるくると円を書く。

「書きやすい……」

 めちゃくちゃ滑らかにペンが走る。こんなにスラスラと書けるペンは使ったことがない。

「二人とも。これ、高かったんじゃ……」

 これだけ書きやすいペンなら、数百円ってことは絶対にない。デザインもいいし、金属が使われてるし、どう考えても四桁はするボールペンだ。

「気にするなよ。俺と椿で出し合って買ったから、負担にはなってないしな」

「だからそのボールペン、遠慮なく使ってよ!」

 俺は二人を見て、改めて手のひらに乗っているボールペンを見る。

 二人の気持ちが伝わってくるようで、自然と笑顔になり、気持ちも高揚する……。

「本当にありがとう……司、椿さん。このボールペン、大切に使わせてもらうよ」

「おう」

「うん!」

 ああ……俺はこっちに来て、本当にいい友達に巡り会えた。

 もちろん、地元にいる二人の友人も大事だけどね。

 その二人は、今頃何してるんだろうな?

 一年以上地元に帰ってないから、やっぱり気になってしまう。

 両親にも「たまには帰ってこい」って言われてるし、夏休みに入ったらどっかのタイミングで一度帰るのもいいかもな。

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