第46話 『振られ神の呪い』
五月四日。この日も開店からシフトに入っていた俺は、お客さんの多さにてんてこ舞いだった。
去年も思ったけど、大型連休の中日……すごいな。
語彙力が消し飛ぶほど、俺は忙しさに追われていた。
けっこうな田舎だから、あまりアミューズメント施設は多くないので、必然的にこのショッピングモールにお客さんは集中するんだよなぁ。一体今このショッピングモールにどれだけの人がいるのやら……考えただけでげんなりしそうだ。
ここは無駄な考えはやめてバイトに集中しないと、気分まで滅入ってしまったら接客にも影響するもんな。
「あの、すみません」
気合いを入れ直した直後、横から女性のお客さんが話しかけてきた。見ると、俺とあまり歳が変わらないような可愛らしい人だった。
「あ、はい。なんでしょう」
「この本を探しているんですけど……」
お客さんが見せてきたスマホの画面を見る。
ふむ……確かこれはうちにあったな。
「ご案内いたしますのでどうぞ」
俺はお客さんの前を歩き、目的の本がある売り場へと案内した。
「こちらでお間違いないでしょうか?」
「これです! ありがとうございます!」
「いえいえ。見つかってよかったですね」
「はい! どうもありがとうございました」
お客さんは欲しかった本を胸に抱きかかえて、何度もぺこぺこと頭を下げてレジへと向かっていった。
あんな嬉しそうな顔を見ると、やっぱりこっちも嬉しくなるな。
「なに鼻の下を伸ばしてるんだい?」
「うわぁ!」
後ろからマユさんに声をかけられて思わず前のめりになってしまった。
いきなり大声をあげてしまったことにより、近くにいたお客さんの何人かは俺を見てきたので、俺はさっきの女の人みたいに、その人たちに頭を下げた。
そしてさっき驚かせてきた張本人にジト目を向ける。
「マユさん……ちゃんと仕事してくださいよ」
およそ後輩が先輩に言っていいようなセリフではないけど、マユさんは気にしないだろうから俺も遠慮はしない。
「失礼な。ちゃんと仕事はしてるよ。祐介くんが女の人を引き連れて私がいる売り場まで来たんだから」
「……言い方に悪意があると思うのは俺だけですかね?」
「那月さんという人がいながら他の女性にデレデレしていた祐介くんが悪いね」
「デ……! な、何を言ってるんですかマユさん! 俺と那月さんはそんなんじゃ……」
俺と那月さんは付き合ってないし、双方に恋愛感情がないのは知ってるはずなのに……。
「おや、デレデレは否定しないのかな?」
「否定します! 普通に接客してただけですよ!」
確かにさっきの人は可愛かったけど、それだけだ。それ以外で言えばとてもいい人そうだと思っただけで、それ以上の感情は抱いていない。
俺がまだ恋愛したいとは思っていないし、それ以前にお客さんに恋心を抱くのもなぁ。
「ふむ……まだダメか」
「え?」
「那月さんと暮らして、『振られ神の呪い』が解けてないかと思ったんだけど、まだダメみたいだね」
「呪いって……」
「おっと、なんか店長がこっちをちらちら見ているから祐介くんは離れた方がいいかもね」
「本当だ……」
普段はあんまり注意しない店長だけど、あの目は『このクソ忙しいのに呑気に喋んな!』ってめちゃくちゃ訴えかけている目だ。
これ以上マユさんと話していると後々説教をくらいそうだから、マユさんの言う通りにした方がよさそうだな。
「それじゃあ祐介くん。頑張ってね~」
「マユさんも頑張ってくださいよ!」
ったく……。でもあの人はあんな軽口を叩いてるけどちゃんと自分の仕事はきっちりとこなすからな。俺も負けないようにしないと!
そこからはまたお客さんが増え、休憩時間まで息付く暇がなかった。
これが明日もあると考えると、ちょっと精神的にまいるな。
那月さんが作ってくれた弁当を食べてリフレッシュするか!
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