第45話 思いついたかも
そして翌日の五月三日。学生も大型連休に突入し、朝早く起きる必要もなくなったのだが、今日は朝からバイトだし、そうじゃなくても那月さんが家のことをやってくれているのでそうも言っていられない。
学校がない分、バイトをがっつり入れられているので、今日はオープンからのシフトだ。
朝起きると、那月さんは既にキッチンで料理をしていた。俺より早く起きて朝食を作ってくれているなんて感謝しかないな。
「おはようございます祐介くん」
「おはようございます那月さん。いつもありが……え?」
那月さんに感謝を伝えようとしたけど、那月さんの近くに置かれていた俺の弁当箱を見て固まってしまった。
「どうかしました?」
「いや、なんで弁当を……?」
学校ないし、昼はショッピングモール内のフードコートで適当に済ませようとしてたのに……あ。
そうだ! 俺、那月さんにそのこと言ってない!
バイトのシフトだけ伝えて、弁当は作らなくていいっとことを言うのをすっかり忘れていた。
「え? だって、バイトって夕方までですよね?」
さも当然のように言ってしまう那月さん。めちゃくちゃ嬉しいけどなんか申し訳ないな……。
「す、すみません作ってもらって。バイトだけの日はフードコートで適当に食べようと思ってたのに、それを那月さんに伝えるのを忘れてしまって……せっかく朝、ゆっくり出来るはずだったのに……」
いつも早く起きて朝食と弁当を作ってくれる那月さんに、少しでも朝の時間を自分のために使って欲しかったな。思ってもあとのまつりだけどさ。
「私はやりたくてやっているのですから、祐介くんが変に気に病む必要はないですよ。お料理するの、楽しいですし」
これまで那月さんと暮らしてきて、那月さんが言ってくるであろうことがなんとなく予想出来るようになったけど、うん。マジで予想通りだ。
「……いつもありがとうございます那月さん」
そして俺が自分を責めても那月さんが優しく諭してくれると思った俺は、顔には出さずにお礼だけ言った。そんな問答で那月さんの時間を使うわけにはいかないもんな。
「はい。ではいつものように、食器を並べておいてもらえますか? 祐介隊員」
「り、了解であります。那月隊長!」
俺は敬礼をし、那月さんの言葉に従う素振りを見せると、那月さんは軽く握り拳を作り、それで口を隠してくすくすと笑っていた。とても可愛らしい……。
それからは楽しくおしゃべりをしながらふたりで作業をし、那月さんの作ってくれた絶品の朝食を食べた。
「では那月さん。いってきますね」
朝食を食べ終え、準備を済ませた俺は、那月さんの弁当が入ったリュックを背負い、玄関で靴を履き替えた。那月さんは当然のようにお見送りに来てくれている。
……新婚さん、みたいだな。口には絶対に出さないけど。
「はい。今日はこの時期にしては暑いみたいですから、しっかりと水分を取ってくださいね」
「はい。那月さんが入れてくれたこのお水で喉を潤わせます」
「もう……普通のお水ですからね」
そんな何気ないやり取りをして、俺たちは笑い合う。
大型連休でお客さんがめちゃくちゃ多い長時間のバイトで滅入っていた気分が一気に晴れやかになるな。やっぱり那月さん自身に癒し効果があるな。
「那月さんも今日、バイトですよね?」
「はい。といってもいつもの時間ですので祐介くんほどの負担はないですよ」
「それでもお客さんはいっぱい来ると思いますから、あまり無理しないでくださいね」
「……はい。ありがとうございます祐介くん」
俺たちはまた笑い合う。
ああ……。本当に楽しいなぁ。
「では、いってきます」
「いってらっしゃい……あ」
笑顔で送り出そうとした那月さんだけど、何か気になることでもあったのか、呼び止められた気がしたので那月の方を振り向いたのだが、那月さんは何か思いついたような、そんな表情をしていた。
「どうかしましたか?」
「い、いえ! なんでもないです。こほん。いってらっしゃい祐介くん」
「? いってきます」
那月さんは笑顔で手を振っていて、これは本当になんでもないと思い、俺は那月さんに見送られながら玄関を出た。
よし! 今日も頑張りますか!
「……祐介くんへのプレゼント、思いついたかも」
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