第42話 何も知らないなって……
「……して那月さん。何を悩んでおったんじゃ?」
私が座ると、シゲさんはいきなり本題に入った。お客様は少ないにしても、私は今勤務中だもんね。シゲさんもあまり時間は取らせないようにしてくれているんだ。
私は心の中でシゲさんにお礼を言い、悩みを打ち明ける。
「実は、私が住まわせてもらっている家の……同居人の男性のお誕生日がもうすぐなんです」
「ほほぅ……那月さんが言っておった「るーむしぇあ」をしておる男の子じゃな?」
「はい。それで、プレゼントを贈りたいのですが……」
「何をあげたらいいのかわからなくて困っておる、と?」
「はい……」
シゲさんに言い当てられてしまった。まあ、ここまで話したらわかってしまうよね。
私がプレゼント選びに頭を悩ませる理由……それは二つある。
一つは祐介くんの好みをまだ把握しきれていないということ。
同居を始めてまだ
土日はもう少し時間があるけど、それでもやっぱり祐介くんの趣味嗜好を理解するのには足りなかった。
そして二つ目の理由……これがネックになっているんだけど、今まで付き合ってきた人たちの中で、交際中にその人の誕生日を迎えることが何回かあって、プレゼントを贈ったんだけど、微妙な反応しかされなかった。ちゃんとその人の好きな物をリサーチしてプレゼントしたのに……。
祐介くんにプレゼントを贈っても、元カレたちのような反応をされたらと思ってしまうと、どうしても思い悩んでしまう。
祐介くんには本当に感謝してるから、祐介くんの喜ぶものをプレゼントしたい。
「……なにかプレゼントの候補はあるのかの?」
数十秒悩んでくれていたシゲさんからの質問。祐介くんに会ったことがないから、やっぱり難しい質問だったかな……。
「……お酒を候補に、というか買おうと思ってます」
「ほぅ」
「彼……祐介くんは今度の誕生日で二十歳になるんです。だから二十歳になったらお酒を呑もうと約束してくれたので、呑みやすいお酒は買おうと思ってます」
祐介くんが初めて呑むことになるお酒は、呑みやすいものを選ぶつもり。お酒に苦手意識を持ってしまわないようなものをね。
「それはその祐介くんにとって忘れられないお酒になるじゃろうな」
「そうあってほしいですね」
いつまで祐介くんの家に居られるかはわからないけど、あの家にいる間は、たまには祐介くんとお酒を呑みたいって思ってるから……。
「ん? じゃがそうなると……プレゼントは決まっているのではないかの?」
「いえ、その……お酒の他にもう一つ何かを渡せたらなと思いまして」
二十歳のお誕生日に渡すのがお酒だけって……アリなのかもしれないけど、それだと私がお酒大好き人間だと思われてしまうかもしれないから……。
お酒は好きだけど、毎日呑んでるわけじゃないし、そこまで強くないから。
「サプライズで渡したいとかかの?」
「いえ、誕生日は聞いてるので、祐介くんもその日は私がささやかなパーティーを開くことは知ってます」
「なら祐介くんに何が欲しいのか聞いてみたらどうかの?」
「聞いてはみたんですが、『なんでもいい』って言われてしまって」
「なるほど……。それは困ったのぉ」
「はい……」
多分、祐介くんの言った『なんでもいい』は、自分の誕生日や貰うプレゼントに関心や頓着がないのではなくて、私から貰うプレゼントならなんでも嬉しいって意味で言ってくれたんだと思う。
じゃなかったら、その言葉を言った時に、あんなに笑顔になるわけがないもん。
でも、だからこそ悩んじゃう……。そして壁にぶつかってしまった。
私って祐介くんのこと何も知らないなって……。
「趣味とかはないのかい?」
「特にはないって言ってました」
私がプレゼント選びに難航している理由の一つが祐介くんの趣味のなさ。何か熱中しているものがあったらプレゼント選びもここまで頭を悩ませることはなかったかもしれない。
悩んではいるけど、実はこの悩みもちょっと楽しかったりするんだけどね。
「う~む……。だとすると、彼の日常生活を見て決めるか、ねっとで調べてプレゼントに人気の物を贈るか……になってしまうのぉ」
「祐介くんの日常生活……観察……」
確かに祐介くんの日常生活ってあんまり意識したことないかも。……いや、恋人でもないただの同居人だから意識するのも変だけど。
でも、シゲさんに話を聞いてもらったら、少しだけ光が見えた気がする。
「ジジイでもお役に立てたかの?」
「はい! とても参考になりました。ありがとうございますシゲさん」
「いいんじゃいいんじゃ。プレゼント選び、上手くいくことを祈っておるよ」
「はい! ……あ、いらっしゃいませー」
シゲさんへの相談が一段落したタイミングでお客様が来店したので、私はシゲさんに深々とお辞儀をして来店したお客様の方へ小走りで向かった。
帰ったら祐介くんを観察するぞー!
「……那月さんがここまで頭を悩ませてくれておるその祐介くんとやらは幸せものじゃの」
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