第4章 祐介の誕生日
第41話 もうすぐなんだよね
私が真夕さんのご実家の喫茶店『煌』でバイトをはじめてからは、目まぐるしいけど充実した日々を送っていき、気づけば五月に入っていた。
制服はカマーベストとメイド服、両方を貸与してもらえたけど、私はまだカマーベストしか着たことがない。
メイド服はやっぱりまだ恥ずかしいって気持ちもあるし、面接(?)の時に優美さんに言われた言葉がリフレインして……だからまだしばらくはカマーベストだけで仕事をするつもり。
メイド服を着る日がいつになるか、はたまた着る日そのものが来るのかはわからないけど……。
祐介くんとの生活はだいぶ慣れて、既にそれが日常となっていたある日、私はふと思い出した。
そういえば、祐介くんのお誕生日……もうすぐなんだよね。
確か五月六日がお誕生日って言ってたから、本当にあと数日しかない。
まだ大型連休に入る直前だから、まだ準備する時間はあるから、急いでプレゼントを用意しなくちゃ。
でも、ここで働き始めてまだそこまで日が経ってないから、お給料日もまだ先……手持ちで用意できなくもないけど、それだと給料日までけっこう節約しなければいけなくなるから……むむむぅ。
「……那月さん。どうしたんじゃ難しい顔をして?」
「あ、シゲさん。いらっしゃいませ」
私が悩んでいると、シゲさんが入店して私に声をかけてくれた。今はバイト中だからしっかりしないと!
「お席、いつもの場所でいいですか?」
「ああ。かまわないよ」
シゲさんはお店の端の席で、お店から見える外の景色を見ながらここのコーヒーを飲むのが好きだと言っていた。
私はシゲさんをいつもの席に案内して、そしていつものコーヒーのオーダーを受けると、それを勇さんに伝える。
私もコーヒーの淹れ方は練習しているのだけど、やっぱり働き始めて二週間やそこらじゃこの喫茶店の味は出せない。元々素人だもの、これからもっと練習しなくっちゃ!
「はい那月さん。これをシゲさんに」
「あ、はい。かしこまりました」
私はシゲさんがオーダーしたコーヒーが入ったカップをトレイに乗せ、シゲさんの元へと向かった。
シゲさんはブラックが好きだからシロップやお砂糖は入れない。常連さんだから早く覚えれた。
「お待たせしてしましたシゲさん。ご注文のコーヒーです」
「おお、ありがとう那月さん」
シゲさんは私にお礼を言うと、カップを持ち、コーヒーを口の中に入れた。
私はトレイを胸に抱え込むように持ち、シゲさんがコーヒーを飲む姿を見つめる。
「……やはりここのコーヒーは格別じゃな」
「ありがとうございます」
「勇君の淹れてくれたコーヒーを那月さんのような美人さんが持ってきてくれる……美味くないわけがないの」
「あらシゲさん。それじゃあ今まで私が持ってきてたコーヒーは美味しくなかったと?」
「じ、冗談じゃよ優美さん。だからばあさんに言いつけそうな目で見ないでおくれ……」
優美さんは「ふふ」っと笑って離れていった。シゲさんの奥様に言いつけるのはもちろん冗談とわかっているのか、シゲさんもそこまで焦った様子はない。
それにこのやり取りも楽しいので私は自然と笑みがこぼれた。
「して那月さん。なにか悩みがあるのではないかい?」
「え?」
私が油断していると、シゲさんが私の心境をズバリ言い当ててしまった。
「わしが入店したら、那月さんが難しい顔をしておったからの。どれ、那月さんさえよければこのじじいに話してくれんかの?」
「え、えっと……」
わ、私ってそんな顔してたの? 今度からは気をつけないと!
それにしてもどうしようかな? シゲさんもこう言ってるし、相談に乗ってもらいたいけど、今はバイト中だし、お客様とお話をするのは……。
そう思って優美さんを見る。優美さんはテーブルを掃除をしていた。
優美さんは私の視線に気づいたのか、にこっと笑って頷いてくれた。どうやらシゲさんとお話をしても大丈夫みたい。
今は比較的お客様が少ない時間帯だからかな?
私は優美さんにペコッと頭を下げて、「ではシゲさん……失礼します」と言って、シゲさんの対面に座り、トレイをテーブルに置いた。
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