第39話 とっても美味しかったです

「ただいま」

 俺がバイトから帰ると、那月さんは夕食の乗ったお皿をテーブルに置いているところだった。

「あ、おかえりなさい祐介くん」

 そして俺を見つけると、那月さんは笑顔で『おかえり』を言ってくれる。

 那月さんとの同居がスタートしてもうすぐ一週間。今までは俺が『ただいま』を言っても、暗い部屋にそのまま掻き消えていたのに、今はこうして『おかえり』と返してくれる人がいる。

 だんだんと慣れてきたとはいえ、やっぱり嬉しいな。

「ただいまです那月さん。すぐ手伝いますね」

「もうすぐ並べ終えるので大丈夫ですよ。祐介くんはゆっくりでいいので着替えと手洗いをしてきてください」

「わ、わかりました」

 那月さんを手伝わねばと思い、リュックをおろそうとしたんだけど、那月さんにやんわりと断られてしまったので、俺はリュックを背負い直し洗面所へ。そして手洗いを終えるとリビングダイニングを抜けて自分の部屋に入り、着替えを終える。

「おっとそうだ。これを持っていかないとな」

 部屋を出ようとして、弁当箱がリュックに入ったままだったのに気付き、リュックから弁当箱を取り出して再びリビングに入る。

 一年以上コンビニや外食だったから、弁当箱を取り出すというのは習慣づいてない。早く慣れないとな。

 そしてシンク付近にいた那月さんに弁当箱を手渡した。

「那月さん。今日もありがとうございました。とっても美味しかったです」

 今日の弁当もお世辞抜きで美味しかった。司と椿さんにも那月さんの弁当が好評で、今日もおかずをシェアした。

「お粗末さまでした。毎日残さず綺麗に食べてくれるので作りがいがあります」

「マジで美味しいですからね。那月さんの弁当は友達にも好評なんですよ」

「え? 祐介くんのお友達も食べてるんですか?」

「はい」

 あ、そういえば二人のことは那月さんに言ってなかったな。

 二人にも那月さんを紹介しろと言われてるし、いいタイミングだと思うからちょっと聞いてみようかな。

「そうですか。祐介くんのお友達にも……」

 俺が那月さんに声をかけようとしたら、那月さんは小さくそんなことを呟いて、微かな微笑みを見せていた。綺麗で可愛いのは言うまでもない。

 そしてこの微笑みの奥にあるのは、きっと元カレたちとのこと……なんだろうな。

 元カレたちは那月さんの料理を食べてもなんの感想もリアクションもないヤツらばかりだと聞いているので、色んな人から好評を受けているから、きっとその表情以上に嬉しいはずだ。

 那月さんの心から、少しずつ元カレたちとの嫌な思い出が消えていってくれたら俺も嬉しい。

 この微笑みをもう少し見ていたいけど、夜も遅い。早くご飯を食べないと那月さんは片付けられないし、こんな時間にご飯を食べるんだ……健康にもあまりよろしくないもんな。

「那月さん。晩ご飯、食べましょう」

「あ、そ、そうですね。では祐介くん、席に着きましょうか」

「はい」

 司たちのことは、食べながらでも言えるから、まずは那月さんが作ってくれためちゃうまな晩ご飯にありつくことにしよう。

「「いただきます!」」

 俺は食材と、作ってくれた那月さんに感謝しつつ、箸を手に取った。

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