第38話 どっちの服で働きたい?

「ところで那月ちゃんはどっちの服で働きたいかしら?」

「え!?」

 私のメイド服のお披露目(?)も一段落したところで、優美さんがそんなことを聞いてきたので、私は驚いてしまった。だって……。

「あら、どうしたの那月ちゃん?」

「わ、私の着る服、選ばせてくれるんですか?」

 カマーベストかメイド服、選ばせてくれるのならありがたいけど、みなさんにはメイド服のほうが好評だったみたいだから、優美さんは絶対にメイド服って言うだろうなと思っていたから……。

「もちろんよ。服を強制したんじゃ、那月ちゃんも楽しく働けないでしょ?」

「そ、そうですね……」

 し、正直、メイド服も最初は抵抗あったけど、いざ着てみたらいいなって思ってたのも確かだし、かといってカマーベストも捨て難い。ああいうかっこいい服を着て仕事してみたいし……悩んじゃうなぁ。

「ここはメイド服一択じゃないの?」

「着る服ひとつでテンションやモチベーションが左右するからね。那月さんにはじっくり考えて選んでほしい」

「どちらの那月ちゃんも素敵だったわよねー」

「そうじゃな。こんなべっぴんさんがいるのなら、わしももっと頻繁に通おうかの」

「あらシゲさん。奥さんに言いますよ?」

「じ、冗談じゃ。優美さん、後生じゃからばあさんには言わないでおくれ」

「那月ちゃん目当てでなく来店の頻度を上げてくれたらいいですよ」

「うむぅ……優美さんはしたたかじゃのう……」

 みなさんの楽しそうな会話と笑い声が聞こえてくる。ちょっと混ざりたいと思うけど服を決めなきゃだし……。

「って、那月さんまだ悩んでる」

「あらあら、どうやらメイド服も気に入っちゃったみたいね」

「そ、そうなんです。どちらの服も捨てがたくて……うぅ」

 私ってこんなに優柔不断だったっけ? いつもならもう少し決断するの早いのに……。

 今はメイド服を着てるけど、もう一度さっきのカマーベストを着た私をイメージしてみよう。むむむ……。

「そんなに悩んじゃう那月ちゃんには、特別に二着とも貸与たいよしちゃいましょう」

「……へ? い、良いのですか?」

 カマーベスト姿を想像していたから、返事が少しだけ遅れてしまった。それに、カマーベストを着た想像の私の前に誰かいたような……。あの体格は男性で、顔はよく見えなかったけど口は弧を描いていた。あれは、ゆう───

「っ!」

 いやいや、祐介くんはただの同居人……居候させてもらってるだけの関係だから!

 ……うん。祐介くんをイメージしてもドキドキしない。仕事着を見た祐介くんのリアクションがどんなものか気になってドキドキしただけだ。

「もちろんよ。ね、あなた。いいわよね?」

「構わないよ。那月さんのその日の気分にあわせて着てくれていいからね」

「あ、ありがとうございます。勇さん、優美さん」

 私はおふたりに勢いよく頭を下げると、フリルのついたカチューシャが床に落ちた。

「あ、す、すみません!」

 私は慌ててカチューシャを拾い立ち上がると、そこには笑顔の優美さんがそばにいた。

「ゆ、優美さん?」

「そのメイド服、那月ちゃんに好きな人が出来たら見せてあげましょうね」

「な……!」

 優美さんがいきなりそんなことを言うものだから、私の顔は一気に熱くなって心臓も大きく跳ねてしまった。

「あら、可愛いわね那月ちゃん。うふふ」

「~~~~~~!」

 それに、『好きな人』と濁していたけど、どうにも私には祐介くんのことを言っているようにしか聞こえない。

 祐介くんは同居人で、特別な感情は抱いていない。でも、祐介くんが私のメイド服姿を見て、どんな反応をするのかはちょっと見てみたい……かな。

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