第32話 想像以上にうぶだった

 洗濯も掃除も終わり、お昼すぎに昨日祐介くんと一緒に来たスーパーに来ていた。

 一昨日はトンカツ、昨日はお野菜が多めだったから、今日はお魚にしようと思い、私はお刺身や切り身が並ぶコーナーに来ていた。

「祐介くんって、お魚は好きなのかな?」

 トンカツが大好物なのを知っているだけで、それ以外の食の好みは聞いてない。

 聞くにしても今は授業中だと思うから、とりあえず無難に鮭の切り身を買って帰ろうかな?

「あれ? 九条さん?」

「え?」

 鮭の切り身が入ったパックを取ろうとした瞬間、横から私の名前を呼ぶ声が聞こえて私の手が止まった。

「あ、仁科さん」

 声がした方を見ると、昨日知り合った祐介くんのバイト先の先輩の仁科さんだった。

 仁科さんはジーンズに袖の長いTシャツといったラフな服を着て、カゴはとくに持っていなかった。

「奇遇ですね仁科さん。お買い物ですか?」

「いえいえ、私はこのあとバイトがあるのでふらっと立ち寄っただけです」

 用もないのにスーパーのお惣菜コーナーに来たりするのかな? ここは少ないけど雑誌もあるからそこならわかるけど……。

 あとお酒。仁科さんは確か祐介くんよりも年上って聞いたから、仁科さんもお酒は飲める年齢になっている。飲むのかはわからないけど。

「それにしても……」

 仁科さんは顎に手をやり、ふむふむと言いながら私を下から上まで観察するように見てくる。

「えっと、どうしました仁科さん?」

「いや~、こうしてカゴを持って夕食を選ぶ九条さんは若妻感がハンパないなと思いまして」

「わっ、か……!」

 仁科さんの思わぬ一言に、私の顔は一気に熱くなってしまった。

「な、何を言ってるんですか仁科さん! わた、私はただ、今日のお夕飯を買っているだけですよ!?」

「リアクションが想像以上にうぶだった」

「も、もう……あまり年上をからかわないでください……!」

 私は熱く火照った頬を、手をうちわのようにパタパタと扇ぎながら仁科さんに抗議したんだけど、仁科さんはあまり聞いてないみたい。

「あはは。すみません。……でもその様子だと、祐介くんとの暮らしは楽しんでるみたいですね」

「そ、そうですね……。まだ三日目ですが、彼との生活は、楽しいって思いますよ」

「カレ、ですか。ほ~そうですか~」

「仁科さん!」

 隙あらばすぐからかってくるんだから……。

 祐介くんにそんな感情は抱いてないのに……ただ純粋に祐介くんとの同居生活を楽しんでるだけなのに。

 でも、ここで仁科さんに会えたのはラッキーだ。この様子なら、仁科さんはまだ時間ありそうだし、聞きたかったことを色々聞いちゃおうかな?

「仁科さん」

「はい?」

「ちょっと聞きたいことがあるんですがいいですか?」

「祐介くんの好みの女性ですか?」

「ち、違いますっ! いや、まぁ好みというところは間違ってないかもですが……祐介くんって、嫌いな食べ物はあるんですか?」

 祐介くんと一年以上付き合いのある仁科さんなら、祐介くんの好みを十分把握してそうだしね。

 本人に聞ければよかったんだけど……時間はいっぱいあったけどなんだかんだバタバタしちゃったから……。

「嫌いな食べ物は特になかったと思いますよ」

「そうですか。ならこれで問題ないですね」

 私はカゴの中にある鮭の切り身を見ながら安堵した。

「ですね。祐介くんも「美味しい」って言いながら食べてくれますよ」

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