第31話 バイトでもなんでも、働かないと

「ふう。こんなものかな」

 祐介くんが学校に行ってから、私はこの家の家事をしていて、今はお洗濯物を干し終えたところだ。

 この土日は私のことでバタバタしていたから、お洗濯が出来なくて、洗濯物がけっこう溜まっていたから一気に片付けた。

「今日はお天気がいいから、よく乾きそう」

 お洗濯は終わったから、次はお掃除だ。男の子の一人暮らしにしては綺麗は方だけど、やっぱり所々に粗が目立つ。これはお掃除のしがいがありそう!

「よーっし! やりますかー!」

 私は部屋の隅に置かれていたコードレスの掃除機を手に取り、スイッチを入れた。

 掃除機特有の「ウィーン」という音が大きな音でなり、床のホコリを吸い取ってくれる。

 祐介くん、綺麗になっている部屋を見たらなんて言うかな? 祐介くんの性格なら普通にお礼を言いそうだけど、それと同時に謝ってくるかもしれないなぁ。

『すみません那月さん! 俺がしなきゃいけないのに……』って。

「本当に言いそう……」

 私もこの家に住んでる……住まわせてもらってるんだから、これくらい当然なのに。

 元々家事は得意だし好きだから、これくらいは私から進んでやる。

 今までの人たちと一緒に暮らしていた時も、私が家事全般をこなしていたんだけど、お礼とか労いの言葉をかけてもらったのは一緒に暮らす前までで、その人たちの家に住みだしてからはそれもぱったりと無くなった。

 別にお礼を言われたいがために家事をしているわけではないんだけど、さも『女は家事をして当然』みたいな顔で見られた時は苦笑いをしてしまった。

 今もその人たち……というか、その人たちの彼女さんが気になる。いるかいないかは別として、また私のような対応をされているのでは? という心配。

 もしそうなら、その彼女さんも私と同じ目で見られているのでは……。

 う~ん。心配だなぁ……。

「次は廊下」

 リビングダイニングの床はあらかた掃除機をかけ終えたので、次は廊下をすることにした。

 廊下の掃除を始める頃には、私は元カレたちのことは考えなくなり、祐介くんのことを考えていた。

 祐介くんの学校での交友関係ってどうなんだろう? 『高校まではほとんど友達が出来なかった、出来たけどほとんど自分から離れていった』って聞いたけど……。

 あんなに優しい祐介くんから、どうして距離を置こうとしたんだろう? 私のように、ちょっと周りの目に敏感で、すぐに謝ってくるけど、それ以外は全然気になるところはない好青年なのに。

 真面目だけど、ちょっと面白い、おどけたような一面もあるから、友達も沢山いると思ったのに。

「う~ん。気になるなぁ」

 でも、それはきっと祐介くんの一番デリケートな部分だと思う。

 昨日知り合った仁科さんにも言われたし、私からは聞かないようにするけど、やっぱり気になっちゃう。

「私に祐介くんの心の傷を、癒せるのかな?」

 祐介くんと知り合って、一緒に住み始めてからまだ三日目。

 昨日、仁科さんに「祐介くんの心を癒してほしい」って言われたけど、祐介くんのことを表面上しか知らない、一緒に過ごした時間が圧倒的に少ない私に出来るのか不安になっていた。

 仁科さんは「普通に生活してるだけでいい」って言っていたけど、本当にそれで祐介くんの心を癒せるの?

 でも、昨日まで私も普通にしてて、それで祐介くんは笑顔になってくれたから、仁科さんの言ったように、普段通りでいいのかな?

 うん。とにかくやってみよう。難しく考えるのはうまくいかなかった時でいいよね。

 祐介くんは困っている見ず知らずな私に手を差し伸べて、一緒に暮らすことを承諾してくれたんだ。祐介くんと出会って、私は今までよりも自然に笑えるようになった。

 今までの人たちと一緒にいた時は、普通に笑う時もあったけど、でもご機嫌をとるために笑ってる時もあったから……。

 でも祐介くんはそれがまったくない。笑う時はいつも自然に笑えている。

「ふふっ」

 今も、昨日の祐介くんとのお買い物を思い出して笑ってるし。一人でにやにやして、き、気持ち悪くないよね!?

 と、とにかく、自然に暮らしていこう。なるべく気負わずに。

 そうだ。ここに住まわせてもらっている以上、私も家にお金を入れないとね。

 そのためにはバイトでもなんでも、働かないと。

 このあとお昼からお買い物しようと思ってたし、どこかで求人情報のチラシでも見てみようかな。

「あ、でも、祐介くんに言わないとだよね」

 祐介くんなら二つ返事で頷いてくれると思うけど、やっぱり家主さんに言わずに長時間家を空けるのは申し訳ないから、今日の夜、祐介くんに相談してみよう。

 そうと決まれば、早く掃除を終わらせよう。

 私は今日の献立を考えながら、家事をこなしていた。

 私の料理を食べて笑顔になる祐介くんを無意識に想像しながら……。

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