第25話 ご飯つぶがついてますよ
椅子に座り手を合わせてから、俺はどれを最初に食べるか悩みながらも口に運んだ料理は、どれも最高に美味しかった。
「うまぁ~」
「ふふ、昨日から思ってましたけど、祐介くんは私の作った料理を本当に美味しそうに食べてくれますね」
「実際にめちゃくちゃ美味しいですからね」
どれもこれも美味すぎて箸が止まらない。
「あ、祐介くん。ご飯つぶがついてますよ」
「え? マジですか!?」
俺はあれだけ止まらなかった箸を止め、那月さんを見た。
すると、那月さんは人差し指で自分の口元に触れていたのだが、その表情が、なにか愛おしいものを見るような……そんな微笑みだったから、そのあまりの美しさに、俺は一瞬、呼吸するのさえ忘れて那月さんの笑顔を見入っていた。
「祐介くん、ここですよ」
俺が那月さんの笑顔に見惚れていて動こうとしなかったので、今度は那月さんが声も出して教えてくれた。
那月さんの声で再起動した俺は、慌てて那月さんが指している自分の箇所に触れると、本当にご飯つぶがついていた。
「す、すみません那月さん……」
「い~え。それだけ夢中で食べてくれてるということですから、嬉しいですよ」
那月さんはまたも、幸せそうな笑顔で俺を見た。
那月さんの元カレどもは、なんでこんなに美味しい料理を作ってもらって、感想の一つも言わなかったんだろう?
自分の彼女なんだから、作るのが当たり前とか、そんな前時代的な思考でもしていたんだろうか?
この料理を毎日食べていて、舌がめちゃくちゃ肥えてしまったらありえない話ではないかもしれないが、それでも感謝の言葉を伝えないのはありえない。
自分のためにいろいろ尽くしてくれていた那月さんを捨てるなんて考えは絶対に起きないはずだ。
将来……そんな日が来るかはわからないけど、もし俺に彼女ができる日が来るとしたら、那月さんの元カレどものようには決してならない。どんな時も相手に感謝や慈しむ心を忘れないようにしよう。
那月さんが早く心の傷を癒し、次の恋に進めるようにも、これからも那月さんにいっぱい感謝の言葉を伝えて、那月さんのサポートをしていこう。
「那月さん。これめちゃくちゃ美味しいです!」
「ありがとうございます祐介くん。それは自信作なんですよ」
今この瞬間も、俺の素直な感想を那月さんに伝えるんだ。
それから夕食を済ませ、その後に引越しそばを食べたのだが、これも文句無しに美味しかった。
最初、やっぱり麺の太さが少し気になっていたのだが、味の前に、そんな些細なことは自然と頭の中から消えていった。
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