第23話 弁当箱を買うんですか?
那月さんが買いたいものがあると言い、次に俺たちがやって来たのは───
「那月さん、弁当箱を買うんですか?」
そう。弁当箱が多く陳列されている売り場だった。色とりどり、大小様々な弁当箱でいっぱいだ。
でも、なんで弁当箱を? 那月さんが使うのか?
「祐介くんは、学校ではお昼、どうしてますか?」
「昼はコンビニで適当に……って、まさか那月さんっ!」
「はい。これは、祐介くんのお弁当箱を選んでるんですよ」
や、やっぱりか! そうだろうとは薄々思っていたけどさ。
「でも、なんでまた?」
言ったあとに気づいた。俺の弁当箱を買う理由なんてひとつしかないじゃないか!
「祐介くんのお弁当を作ろうと思いまして。祐介くん、どれがいいですか?」
うん。それしかないよね。
俺が自分のアホさ加減に内心で嘆息していると、那月さんはどの弁当箱がいいか聞いてきた。めっちゃいい笑顔だ。
「で、でも、那月さんの負担が増えませんか? こっちに来てからはずっとコンビニや外食でしたから、これからもそれで大丈夫ですよ。朝夕と那月さんが作ってくれるのもすごく感謝してますし」
「朝食を作る合間にパパっと作っちゃいますから負担ではないですよ。元々お料理は好きですし、祐介くんは私の作った料理を本当に美味しそうに食べてくれますしね」
「それは、マジで美味しいからですよ」
那月さんは「ありがとうございます」と言い、満面の笑みを俺に見せてくれた。
那月さんの料理はどれも文句なしで美味い。彼女の料理を食ってそんな感想を抱かなかった元カレ連中がどうかしているだけだ。
「それに、コンビニや外食ばかりだと栄養が偏っちゃいます。お料理が出来る私は、同居人である祐介くんの食生活を管理する義務があると考えます。祐介くんには健康でいてほしいですから」
「うぐ……」
た、確かにコンビニ弁当だと野菜を摂るのは難しい……野菜ジュースで補っているけど、ちょっと味気ないと感じていたのも事実だ。
「そして、私がお弁当を作ることによって、祐介くんはコンビニに行かなくてもよくなりますし、何より出費が抑えられます。お弁当を買うより、作った方が食費は安くなりますから」
これも那月さんの言う通りだ。コンビニの弁当ってわりとするし、プラス外食も合わせると毎月の食費はなかなかのものになる。地元にいた頃、弁当を作ってくれた母さんのありがたさがわかった。
那月さんが弁当を作ってくれることにより、食費が抑えられてその分を貯金やほかのものに当てることが出来るのもまた事実。俺にとったらメリットしかない。
だからこそ、今一度確認しなければいけない。
「那月さん」
「なんですか?」
「これは、那月さんがやりたいから言っている……んですよね?」
生活費を少しでも抑えるということはとても重要な事だ。
でも、もし那月さんがそのために本当はやりたくない俺の弁当作りを申し出たのなら、俺は首を縦に振ることは出来ない。
今まで苦労してきた那月さんだ。俺と同居している間くらい、自由に、自分のことを優先して暮らしてほしい。
だから、那月さんが本心で言ってくれない限りは、俺はお願いしたくないんだ。
「もちろんですよ。私は自分の意思で、祐介くんのお弁当を作りたいって思ってます」
「っ!」
一切の迷いなく、可愛さの混じった大人な笑顔で言われたから、俺の心臓は大きく跳ねた。
そんな表情でそんなこと言うのは……ずるい。
今もうるさい心臓、そして頬の熱を冷ますために俺は一度瞑目し、深呼吸をしてから再び那月さんを見る。
すると、那月さんはにこにこと笑みを見せていた。今度は大人な雰囲気が薄れてめちゃくちゃ可愛い。
俺も自然と笑顔になり、鼻を鳴らして、様々な弁当箱をざっくり見ていく。
そして、二段になっている青色の弁当箱を取った。
「わかりました。それじゃあ、お願いしますね。那月さん」
「はい。任せてください!」
俺がそう言うと、那月さんは笑顔のままで、俺が持っていた弁当箱を優しく受け取った。
明日からのお昼、楽しみだな。
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