第20話 私に嫉妬してます?

 私は先程知り合った祐介くんのバイトの先輩、仁科真夕さんに連れられてランジェリーショップにやって来た。

 シンプルなものかは可愛いものまで、多彩な商品が取り揃えられているから、下着はここだけで一通り買うことが出来る。

 祐介くん一人にあの荷物を長時間持たせるわけにはいかないから、早く戻って祐介くんの負担を軽くしないと。

「さ、九条さん。いっぱい種類があるからゆっくり見て選びましょう」

「で、ですが、あまり長居をすると、祐介くんが……」

「彼なら大丈夫ですよ。あなたの元カレたちと違ってとても優しい性格ですから、多少待たせても文句は言いません。それどころか、早く戻ってしまうと、『きっと自分がいたからこんなに早くに戻ってきたのでは……?』 と思ってしまいますから、それなりに時間をかけて好きなのを選びましょうよ」

「…………」

 すごい……まるで祐介くんが言うことを理解しているような、そんな感じがする。

 仁科さんの言う通り、私が早く戻ると、きっと祐介くんは自分がいたからと責任を感じてしまう。

 早く祐介くんのもとに戻って、荷物を持ちたかったけど……ここは仁科さんに従ったほうが良さそう。

「ん? どうしました?」

「あ、い、いえ! その……祐介くんのことをよく理解しているなと思いまして」

「まあ、なんだかんだで一年くらいの付き合いですからね。祐介くんのことは一応理解しているつもりですよ」

「そう、ですか……」

 それだけの時間があれば、相手を理解するには十分だよね。

「……九条さん。もしかしてなんですが、私に嫉妬してます?」

「え? ……ええっ!?」

 私が、仁科さんに嫉妬!? ど、どうして!?

「な、なんでですか!?」

「いやだって、私が祐介くんのことを話すとあからさまに元気をなくすもんですから……」

「ち、違います! 嫉妬だなんて……そんなっ!」

 私は手と顔をぶんぶんと振り、仁科さんの言葉を否定する。

 だって現に、祐介くんと一緒にいても、私の心はドキドキしてないもの。

 ただ……今までの人たちとは違って、安らぐというか、とても落ち着くのは確か。

「え? 違うんですか?」

「そ、そうですよ! 私はただ、居候として、もっと祐介くんのことを知らなきゃって思っただけです!」

 だからそんなに驚かれても困ってしまうよ。

「あ、なるほど」

 仁科さんは驚きから一変、合点がいったように手をポンと打ち、続けて口を開いた。

「まあ、人を理解するなんてこと、一朝一夕で出来ることじゃないですからね。私より祐介くんと一緒にいる時間が長い九条さんなら、きっとすぐ私より彼を理解できるようになりますよ」

「そうですね。頑張ります」

 いつまであの家にいるかは分からないけど、それでも一緒に暮らす以上は、祐介くんのことを知っていかないとね。トンカツが好きなのは理解したから、好きなものをもっと知っていきたい。

 それからしばらくは二人して色んな下着を見て回り、いよいよお会計をしようとしたところで、仁科さんがまた私に声をかけた。

「九条さん」

「はい ……え?」

 さっきまでとは違って、真面目な声音だったなと思いながら仁科さんを見ると、仁科さんの表情も真剣だった。

 私は一気に緊張して、ゴクリと唾を飲んだ。

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