第16話 男として当然です

 次に俺たちがやってきたのはアパレルショップやアクセサリーショップが多く立ち並ぶ大通りだ。メンズ、レディース、子供用、カジュアルからフォーマルまで、この大通りにある店舗だけで大体が揃う、ファッション好きにはたまらないエリアだ。

 俺のバイト先の書店があるショッピングモール内に行こうという案も出なかったわけではないが、もし万が一那月さんと歩いているところを知り合いや同僚……特にマユさんにでも見られたら絶対にめんどくさい方向に話がいくから嫌なんだよなぁ。あれ? 今日ってマユさん出勤だったっけ?

「すごい! 服屋さんがいっぱいですね」

 那月さんは様々なアパレルショップを目にしてテンションが上がっている。那月さん、服が好きなのかな?

 それにしても、大人な……ちょっぴりセクシーな服を着てはしゃいでいるナチュラルメイクの那月さん……ミスマッチに見えてなかなか……いやかなりいいな。

「ここなら大体揃いますから、色々買っちゃいましょう」

「はい。……ですが祐介くん、重くないですか?」

 那月さんは俺が手に持っている袋を見ながら、遠慮ぎみに言った。

 俺の手にはさっきの家具屋で買った那月さんの食器が入った袋を持っている。長時間自分の荷物を持たせることに申し訳なさを感じているのだろうか?

「平気ですよ。重いものが入っているわけでもないですから。割れ物だからそこさえ気をつけていればいいだけですしね」

「ですが……」

 この気遣いよう……今まで元カレたちとのデートでは、那月さんが荷物を全部持っていたこともあるらしいから……男に持たせるのはもしかしたら初めてかもしれないから、こんなに気遣っているのかもしれないな。

 なら俺に出来ることは、那月さんの憂いを少しでも無くすことだ。

「大丈夫ですよこのくらい。それに、今日は那月さんの服を買いにここに来たんです。仮にこれを那月さんが持って、気に入った服を身体に当てたり、試着する時は毎回俺に持たせるのが手間だし、そっちの方が那月さんも申し訳ないって思うんじゃないですか?」

「そ、それは……」

「俺は全然平気です。力には少しだけ自信があるので。それに、女性の荷物を持つのは男として当然です。那月さんがいた環境ですぐに考えを変えるのは難しいかもですが、出来うる限り俺が荷物持ちをするので、那月さんは遠慮なく服を選んでください」

「祐介くん……」

 俺は出来る限り優しい笑顔と口調を心がけて言った。

 那月さんの恋愛遍歴は特殊だ。普通なら男が率先してやらないといけないであろう事を那月さんが全てやってきている。

 恋愛経験ゼロで、漫画やアニメ、ドラマの知識しかない俺にだって、それが絶対に間違っていることはわかる。

 ちょっと大袈裟な表現になるかもしれないけど、そんな那月さんの凝り固まった固定概念を少しでいいから解きほぐしてあげたい。

「ありがとう祐介くん。じゃあ……お願いしますね」

「もちろんです。任せてください!」

 那月さんのお礼に、俺はちょっとオーバーに返した。そうすることで、那月さんの心がさらに軽くなると思ったから。

「でも、持ちきれなくなったり、やっぱり重くなってきたら私が持ちますから、遠慮しないでくださいね」

「ではお互い遠慮はなしということでいきましょう」

「わかりました。ふふ」

「あはは」

 よかった。那月さんに笑顔が戻った。

 この人の笑顔……やっぱりとてつもなく綺麗で可愛いな。

「では行きましょう。那月さん」

「はい。祐介くん」

 俺たちは再び歩き出した。

 那月さんがどんな服を選ぶのか、ちょっと楽しみになってきた。

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