第15話 食器を見に行きましょう

「じゃあ次は、那月さんの使う食器を見に行きますか」

「え!?」

 ベッドを購入し、配達の手配も済んだので、お次は那月さんが家で使うお茶碗やお箸を選びに行こうと提案したのだが、何故か那月さんは驚いていた。

「えっと……すみません勝手に決めようとして。もしかして他に行きたいところがありましたか?」

 今日はあくまで那月さんが使う家具や食器、服を買うために出掛けている。なのでどこに行きたいのかは那月さんに任せたほうがよかったかなと内心で反省していると、那月さんはふるふると首を横に振った。ゆるふわライトブラウンの綺麗な髪が揺れてそちらに意識がいってしまう。

「い、いえ、そういうわけでは……あの、もしかして、このお店で買うんですか?」

「そ、そうですけど……」

 このお店の商品はお値段の割にいい物が揃ってるからな。那月さんには少しでも快適な生活をしてほしいから、生き物にとって欠かせない食事も、いい食器でいい気分で食べてほしいから言ったんだけど、那月さんはお気に召さなかったのかな?

「ひ、百円ショップのではなくて?」

「え?」

 だけど、俺の予想は大きく外れていた。

「なんで百円ショップなんですか?」

「だ、だって、居候の私が使う食器をこんないい所で買うのはやっぱり申し訳ないと言いますか……それに───」

「歴代の彼氏たちと住んでた頃は全部百円ショップで買った食器を使っていたから……ですか?」

「っ!?」

「やっぱり」

 那月さんが言おうとしていることがなんとなくわかったので、那月さんの言葉を遮って言ってみたんだけど、反応から察するに、どうやら今度は当たっていたみたいだ。

「ど、どうして……」

「なんとなく、ですよ。那月さんの元カレたちの信じられない言動を聞いていると、もしかしたらって想像出来たんです」

「そ、その通りです。だから私の使う食器は百円ショップに行って───」

「那月さん」

 俺は那月さんの言葉を再度遮った。

 そして真剣な表情で那月さんを見る。

「は、はい」

 那月さんは戸惑いながらも俺を見てくる。改めて見ると、この人は目も綺麗だな。

「俺は、那月さんが俺と同居するのなら、少しでも快適に暮らしてほしいって思ってます。別に百円ショップの食器をディスっているわけではないですよ。百均の食器もいい物が揃ってると思いますし。だけど、那月さんが長く使うものは、少しでもいい物であってほしいって俺は思うんです」

「祐介くん……」

「たとえ那月さんが俺の部屋を出ていく日が来ても、新しい部屋でもその食器は使っていけるだろうし、そんな日が来ても、ここでの生活はいいものだったと……少しでも元カレたちとの嫌な思い出が霞むように俺がしたいんです」

「……」

「すみません。途中から何言ってるかわかんなくなっちゃって……」

 でも本心だ。那月さんは今まで、元カレたちの酷い言動でいっぱい傷ついてきた。なら、その傷ついた心を癒すのは同居人である俺の務めだ。こんな『振られ神』の俺に出来ることなんてたかが知れてると思うが、それでも、少しでも那月さんの中から嫌な思い出が消えるよう、次の恋に向けて一歩を踏み抱けるよう、手助けをしたい。

 だから、俺と一緒に暮らしているあいだは、那月さんには笑顔でいてほしい。

「……祐介くんのお気持ち、とても嬉しいです。ありがとう祐介くん」

「い、いえ! これくらい……」

 那月さんが柔和な笑みを見せてくれた。どタイプな人の笑顔を直視出来なくて、俺は顔を逸らしてしまった。

「じ、じゃあ、その……一緒に食器、選んでくれます?」

「き、決めるのは那月さんですけど……わかりました」

「ありがとうございます。では行きましょう、祐介くん」

 こうして俺たちは一緒に食器を選び、白地に淡いピンク色の模様が入ったお茶碗とお箸を購入した。

 那月さんはピンクが好きなのかな? 覚えておこう。

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