第12話 不思議な人……
祐介くんの家に居候させてもらえることになった日の夜中、私……九条那月は祐介くんのベッドに仰向けで寝ていた。目はパッチリとさえてしまって寝付けない。
この家には、ベッドは祐介くんの物ひとつしかなかったから、私はリビングのソファで寝ると言ったんだけど、祐介くんがソファで寝ると言い出して譲らなかったので、私は祐介くんのベッドを使わせてもらっている。
明日、家具屋さんをはじめとした色々なお店を二人で回る約束をしたのだけど、私のベッドが届くまでこのベッドを使っていいと言われてしまった。
もちろんありがたいんだけど……やっぱり申し訳ないよね……。
でも言ったところで祐介くんは折れないと思ったから、なるべく早くベッドを届けてもらうようにお願いしないと。
それにしても、祐介くんって不思議な人……。
声をかけられた時はびっくりしたけど、彼氏……もう元カレだよね。元カレに知らない場所で置き去りにされて、すごく心細かった。
話を聞いてもらっているうちに心も軽くなって、ネットカフェで一夜を明かすために移動しようと考えていたところに、祐介くんからこの家に来ないかと言われて、さらにびっくりしてしまった。
私は男運がない……今までお付き合いした男性は十人くらいいたけど、どの人とも長続きはしなかったし、どの人も性格に癖がある人ばかりだった。
一緒にお買い物をしても自分の荷物すら私に平気で全部持たせる人や、公共の乗り物で席が空いているのに、私に立つよう命令した人、私が体調崩している時も心配などしてくれなくて、普通に「飯を作れ」と言ってくる人や、デート代を毎回私に全額払わせる人、二人で会う場所は必ずどちらかの家で、その度に私の身体を求めてきた人などなど……言い出したらキリがないくらい。
今日までお付き合いをしていた人はその最たる人で、必ず濃いメイクをするよう命令してきたり、デート代も私が全部持ち……そしてまさか知り合いのいない隣の県に置き去りにされるとは思ってもみなかった。
祐介くんには言わなかったけど、正直私はもう恋愛に対して少し懲りていたところがあった。
これからもきっと、私が知り合う男の人は、何かしら問題がある人ばかりだろうと……。
だから祐介くんが家に来るよう言ったときも、「あぁ……泊めてやるから抱かせろ」と言うんだろうなぁ……と思ってしまった。今にして思うとすごく失礼なことを思ってしまった。
でも、話しているうちに彼は私を本気で気にかけてくれていることを理解して、私はこの家に泊めてもらうよう頼んだ。
この短い時間で、祐介くんは、私が今までお付き合いしてきた人とは明らかに違うと確信を持つようになった。ううん……もしかしたら、祐介くんの振る舞いこそが、『普通』なのかもしれない。
今までこんな『普通』を知らなかった私には、祐介くんの優しさがとても新鮮で、とても嬉しくて、彼なら信用出来るかもしれないと思って、私は彼に居候させてほしいと頼み込んだ。
それに対して祐介くんはちょっと渋っていたけど、最終的には了承してくれた。
渋っている時も、祐介くんは自分の心配ではなく私の心配ばかりしていて、話をしているうちに、『信用出来るかもしれない』が『信用出来る』に変わった。
男運ゼロの私が言うと信頼性が怪しまれるけど、とにかく祐介くんは信用出来ると思ったんだ。
地元に戻って、もし元カレたちに会ってしまったら気まずいし……だからしばらくは地元に戻らないつもりだ。
それにしても、祐介くんと話していて、彼が気になることを言っていたなぁ……。
『なんか……俺と同じだなって思ったんです』
あれは、どういう意味だったんだろう?
まさか、祐介くんも今までお付き合いしてきた女性からひどい言動を受けてきたのかな!?
あ、でも、祐介くんは今までお付き合いしてきた人はいないって言ってたっけ。告白しても振られたって……う~ん。
祐介くん……優しいし顔も悪くないと思うから彼女になる人は絶対幸せになれると思うんだけどな……。
私だったら絶対に「うらやましい」って思うのに……。
「……え?」
そこまで考えて、頬が急激に熱くなった私はベッドから勢いよく上体だけを起こした。
「そ、そんなんじゃないから!」
起こすのと同時にそう叫んでしまい、私は自分の手で口を押さえた。
人の家で、居候初日に、それも夜中に大声出すなんて……祐介くんに迷惑しかかからないじゃない……。
祐介くんはびっくりして部屋にやってくると思ったけど、一分くらい待っても来なかったから、多分寝てるのかな? とにかく起こさなくてよかった。
心臓の音もだんだん落ち着いてきた。ドキドキしてたのは祐介くんが起きてしまわないかの心配をしていたわけであって、祐介くんにドキドキしていたわけじゃない。
それに、ちょっと優しくされただけで好きになるとか……そんな軽い気持ちは起こらない。節操がないよ。
今までの人とは、最初はすごく優しくしてくれて、告白されて付き合ってきたけど、今までそれで何回も失敗してきた。
その人たちとお付き合いをしたこと自体に後悔はない……それを後悔したら、元カレたちに失礼だし、何より自分を否定するのと同じだと思うから……。
今は誰ともお付き合いする気はないから、明日からの祐介くんとの同居生活を純粋に楽しもうと思う。
そうだ! 明日は早く起きて朝ごはんを用意しよう。きっと祐介くんはびっくりするはず。
お夕飯も本当に美味しそうに食べてくれたし……初めての経験でとても嬉しかった。
そうと決まれば早く寝よう。
「これからよろしくお願いします。祐介くん」
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