第6話 でももへちまもありませーん
俺の家に泊まることとなった九条さん。
泊まらせてくれるお礼に、夕飯は九条さんが作ってくれることになり、リクエストを聞かれて俺はトンカツと答えた。
トンカツは俺の一番好きなメニューで、母さんの作るトンカツが恋しくなっていたところだ。
ショッピングモール内で夕飯と、九条さんが使う洗顔剤やボディーソープ、シャンプーとコンディショナーとクレンジングにパジャマ、そして……下着を購入したんだけど、何気ない場面で九条さんが付き合ってきた男たちの個人的ありえないエピソードを聞くことになる。
それは食材を購入し、買った商品を袋に詰め終えたあとのこと……。
「あ、俺が持ちますよ」
「え!?」
「え?」
普通に重い荷物を女性に持たせるわけにはいかないと思って、袋を持とうとしたんだけど、それにしては九条さんのリアクションがややオーバーなものに感じるな。
「いや、重いものは男が持つでしょ……普通」
「……そんなこと初めて言われました」
「え?」
今回買ったものは俺でもちょっと重いと感じるほどだ。食材だけでなくシャンプーとかも買ったからな。
九条さんの今までの男は、そんなものを平気で九条さんに持たせてたっていうのか!? ありえねぇ……。
あと、下着売り場に移動中、九条さんはなぜか俺と並んで歩かず、俺の少し後ろを付いてくるように歩いていた。
これは……昼前に見た、九条さんを置き去りにした彼氏と一緒にいる時に見たな。
「えっと……九条さん」
「はい?」
「なんで俺と並んで歩かないんですか? やっぱり俺が信用出来ないから……とかですか?」
まだ全然お互いのことを知らないから、警戒するのも無理は無いのかもしれないけど、なんとなく九条さんはそれだけでない気がした。
「……並んで歩いていいんですか?」
「当たり前……もしかして、これも……ですか?」
「そうですね。私が並んで歩くとなぜか不機嫌になる人が多かったので……」
待て待て……え? ちっとも理解出来ないんだけど。
九条さんの歴代の彼氏は、九条さんが隣で歩くのさえ許してくれなかったやつが多いのか!?
普通こんな美人と並んで歩けるとかめちゃくちゃ嬉しくなると思うんだけど……。
「俺は……九条さんに並んで歩いてほしいから……」
「っ! わかりました。ありがとうございます降神くん」
……こんなの、お礼を言う場面でもなんでもないだろう。
バスに乗った時もそうだ。
「九条さん、窓側どうぞ」
「いえ、私に構わず降神くんは座ってください」
「え?」
俺はって、どういうことだ? もしかして、これも?
「ひょっとして、歴代の彼氏に「お前はそのまま立ってろ」なんて言われました?」
「はい」
即答かよ……。
公共の乗り物で、しかも席が空いているのに彼女を立たせるなんて……そこになんの意味があるんだよ!?
「いいから、九条さんは窓側に座ってください」
「で、でも……」
「でももへちまもありませーん。九条さんは誰とも付き合ってないんですから、いつまでもそんな最低なヤツらのふざけた命令を守る義務なんてないんです。それに、バスは揺れますし、そんなヒールの靴を履いて足をくじいてしまったら大変ですから、だから座ってくださーい」
俺は少しおどけたように九条さんに座るよう促した。
九条さんが遠慮することなく座ってくれるように。
そして、こんな馬鹿げたことを九条さんに強要してきた、九条さんの歴代の彼氏たちに湧いた怒りを隠すために……。
「はい。……ありがとうございます降神くん」
「いえいえ」
だから、お礼を言う必要なんかないんだって……!
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