第9話:お空の上で朝食配信がしたいんです!

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 天翔あまかけ楼閣ろうかく。神々しく東京の「スミダ」にそびえ立つそのEXダンジョンは、未だ踏破した人間が存在しない人類にとって未知なる領域である。


 出現するモンスターの強さはもちろん、侵入した来客冒険者へ容赦無く襲いかかる数多のトラップ、そして異常なまでの長さを誇る頂上へ道のりがこのダンジョンの難易度をぶち上げているのだろう。


 過去にも名だたるダンジョン探索を専門とする企業がこの「天翔る楼閣」に挑戦してきた。だが、今の最高到達階層は三大企業が一つ、「神獣商会」の99階層……頂上まであと一歩のところで止む無く撤退を決断した歴史がある。


 あの「神獣商会」ですら踏破できない。その事実はダンジョン探索をこよなく愛する者たちへ衝撃を与え、「天翔る楼閣」は誰もクリアできる人間はいないのだと思い知った。


 だが今日、その歴史は塗り替えられる。我々「たまこし学園」が誇る期待の超スーパールーキー、そして清楚担当、「磯部ミヒロ」によって!!!

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「ま、概要欄はこんなもんでいっか。どうせ大体のやつ読まんし」


「わー、何だかかっこいいですね! 私もこの文章読んでたらワクワクしてきちゃいました!」


 「天翔る楼閣」の入り口前。そこで田中さんが急ピッチで配信の準備をしてくれていて、私たちは今それを待っている状態だ。

 それにしても、本当にこのダンジョンびっくりするぐらい大きくて高いや。これならきっと私がしたかったことが叶えられそう!


「それにしてもミヒロちゃん、どうして今回はここを選んだの? 他にもまし……なところはEXダンジョンにないけど、高いところだし平気?」


「ふふふっ、カズサさん。実はリスナーさんにリクエストもらった時にちょっと調べてたんです、このダンジョンのこと。そしたら、私がどうしてもやってみたいことを実現できそうだったんですよ!!!」


「え、なになに?」


「それはですね……お空の上にあるって言われている頂上で朝食配信することです! これ以上ない絶景と踏破した時の喜びをお二人やリスナーさんと味わいたいんです!!!」


「……意外と普通だ」


「い、意外と普通って何ですか!!! 私はカズサさんが思っているような変人なんかじゃないですからね!!!」


「ま、まぁそういうことにしておこう。でもいいね、確かにそれは私もやってみたい。料理器具とかどうしよっか?」


「それなら安心してください! このカバンに全部入れてきました!」


 フライパンとかダンジョンで料理をするときに必要な道具はぜーんぶこのカバンの中に入れてきた。ちょっぴり重いから動きにくいけど、これぐらいならハンデにもならないもんね。


「ああ……良かった。なんかその大きいカバンに武器でも入ってるのかと思ってたよ」


「え、武器は召喚して呼び出す物じゃないないですか。わざわざカバンに入れる必要あります?」


「へ?」


「え?」


 ……あ、あれぇ? 私また変なこと言っちゃったのかな……。で、でもいいもん、こんなの気にしない! 私は私の道を進むまでだもん!


「2人ともー配信の準備できたわ。そろそろ始めよっか」


「は、はーい!」


「うう、緊張する……。ミヒロちゃんは大丈夫?」


 カズサさん、自分だってすっごく緊張してるはずなのに私のことを心配してくれた。本当に優しい人、私も後輩ちゃんができたらこんな先輩になりたいな。


 でも、今日は私が頑張らないといけない。2人は私のわがままを聞いてついてきてくれた。だからお二人にとっても、楽しかったって思える配信に、そして探索にしないといけないよね。


「私は大丈夫です! お二人が挑戦して良かったって思えるよう、頑張りますから!」


「ミヒロちゃん……うん、私も頑張る! ほら、田中も宣言しな」


「ががががががががががががががんばります」


 ああ……田中さんさっきまではなんとかいつもの調子だったのに。もうすぐダンジョン突入ってなったら、またビクビクしちゃった。


「田中さん、大丈夫ですよ! ほら、ぎゅーっ!」


「え、み、ミヒロちゃん……」


 それが少しでも和らいでくれたらいいなって思った私は、田中さんのことを軽くギュって抱きしめた。ちょっと距離感近すぎたかな? 

でも、これは私が地元のダンジョンに挑戦するとき緊張をほぐすためによくおばあちゃんにしてもらってた。これしてもらったら、緊張なんてふっ飛んじゃうんだよね!


「どうですか田中さん、落ち着きました?」


「うん、ナイス取れ高ミヒロちゃん!」


「え?」


「あ、田中お前……私の配信先に始めてたな!?」


「え?」


「今の全部配信でリスナーに見られてたんだよミヒロちゃん! 今は……あ、ミヒロちゃん効果強っ。私のチャンネルでももう1000人ぐらい見てる」


———

「百合きたあああああああああああああああああああああああああああああああ!」

「えっど」

「ミヒロに抱きつかれてるやつだれ? マネージャー?」

「策士だなマネージャー」

「えっど」

「我らがジャンヌの配信はまだか!?」

「てかこのカズサって人も可愛い」

「百合豚ブヒッてて草なんよwwwwwwwww」

「えっど」

「百合は世界を救う。男はいらない」

———


「た、田中さん!!!」


 み、みなさん私が田中さんに抱きついたところ見てたってこと!? す、すごい恥ずかしい……か、顔が焼けるみたいに熱いよぉ。


「いやいやごめんごめん、ついつい取れ高欲しくてさ」


「もう……ピンチになってもたまにしか助けませんから」


「え、それはまじ困るんだけど」


「助けてもらえるだけありがたいと思え田中」


「ええ!? そんな殺生な!」


「自業自得だろ。よし、それじゃあミヒロちゃんも配信初めていいよ!」


「はい!!!」


 そして私は配信用のスマホを取り出して、開始ボタンを押す。

 二度目のダンジョン配信、スタートです!!!

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