第18話




「っ……あの、それ、本気なんです?」

「女性に結婚を申し込むのに嘘なんて言いませんよ」

「ええと――あなた、わたしのこと……好きなんですか?」

「はい。なので今全力で口説いてます」


 えええええ、とセレスは困惑に頭を抱える。


「聖女サマそれは俺にいきなり口説かれて困ってるんです? それともいつから好きだったのこの人、ってなってる? あとはせっかく諦めて自己解決したのに蒸し返してくるんじゃねえよ、ってののどれですか?」

「とりあえず全部ですね!」


 そう、シークの言う通り全ての事で頭が混乱している。だから、告白どころか求婚までされたと言うのに、素直に喜ぶ事が出来ないのだ。


「いきなり口説いてるのはあれですね、これまでの二年はあくまで任務として貴女の傍にいたので、その状態で口説いたりはできなかったからです。貴女を好きだなと自覚したのも同じくらいかな? わりと最初の内……二ヶ月くらいで落ちてましたよ」

「早くないです?」

「我ながらチョロイなと思います」


 シークは愉快そうに肩を揺らす。


「好意を持ったのはアンネ様と同じです。貴女の裏表の無い、素直な所に惹かれて、気付いた時には沼でした」

「沼って」

「ズブズブですよズブズブ。真っ直ぐに感情を見せてくれるのが嬉しくて、ついからかう様な事をしてしまったらさらにズブッと。いやあ抜け出せなくなりましたね」

「だんだん褒められてる気がしなくなりますね?」

「褒めてはないです、口説いてるんです」

「それで!?」

「なにしろ女性を口説くのには慣れていないので」

「もてそうなのに?」


 性格はともかくとして見た目は良い。さらには騎士であるのだから、職業としても人気のはずだ。


「ええ、これまでは自分から声を掛けずとも縁があったので」

「うわっなんだか腹の立つ言い方」

「だから必死なんですよこれでも。多少の粗はこれから挽回していくので、今は大目にみてください」


 シークは自分で持ってきた焼き菓子に手を伸ばす。セレスもつられて手を動かしかけたが、まだ訊きたい、もとい突っ込みたい所があるので我慢した。


「他にまだ何かあります?」

「あります……そんな、わたしのことをす、きだとか、こうやってまた逢いに来るなら、どうしてあんな風に言ったんです?」


 これで最後です縁が切れますよ、だなんて。なんだかんだでセレスにとってはあの言葉で地味に傷付いたのだ。それがたとえ自分が先に口にしていたものであったとしても。

 なのにシークは事も無げに言う。


「ああ、あれは警邏隊の人間を装って聖女サマと逢うのは最後ですよって意味です」

「えええええ……」

「実際あの後はもう騎士勤めとしての俺しか見てないでしょう? それとも警邏隊の方が聖女サマはお好きですか? そっちがいいなら今すぐ辞職して警邏隊に再就職してか」

「しなくていいです!」


 つい被せ気味に突っ込んでしまった。軽口の様でありながら目の奥が真剣すぎたのだから仕方が無い。

 なんだかいつもより疲れる、とセレスは大きく息を吐く。シークはそんなセレスに軽そうに見えてとんでもなく威力のある言葉を投げつけた。


「ところで聖女サマ」

「はい?」

「気付いてます?」

「なにがです?」

「三つ目のヤツ。突っ込みが入らないって事は、肯定って事で間違い無い?」


 三つ目? とセレスは首を傾げる。三つ目とはなんぞや。そう考えて先程のシークの言葉を思い返す。

 あ、と思わず声が漏れた。すると途端にシークの口角が上がっていく。セレスは慌てて首を横に振った。


「ちがっ! そうじゃなくて!!」

「今更でしょう聖女サマ。あと言いましたよね、貴女は裏表が無いって。バレバレですよ」

「ちがうったら! そんなのじゃなくて! っていうかものすごい自惚れた発言じゃないですか今の!」


 貴女、俺の事が好きですよね? だなんて、自惚れも自惚れだ。勘違いだとしたら痛々しさの極み。残念なのは、これが勘違いでも自惚れでも無いという事だ。


「そりゃ自惚れもしますよ。聖女サマ、俺が来るといつも顰めっ面してましたけど、でもその前に一瞬だけ嬉しそうにしてたし」

「してません!」

「茶もくれるし」

「それはあなたにだけ特別ってわけではなくて、誰が相手でもそうしてます!」


 ですよね、とくつくつと喉奥で笑うのは完全にからかっているからだ。これは怒っていいやつ、とセレスは素直に怒りを露わにする。


「だから、そうやって正直な反応する聖女サマが好きなんですって。で、聖女サマも少なからず俺の事は好いていてはくれたんじゃないですか? 俺がこれで縁が切れますよって言った時も、すげえ悲しそうな顔をしてたのは、あれはそういうのじゃ無いんです?」


 ぐぬぬ、と唸り声さえ漏れそうで、セレスは唇を噛み締めるしかない。


「とはいえ、自分のそういった気持ちに気付いたのはこの一月だろうし、自覚したと同時に俺はいないし、じゃあこの気持ちも終わりかって、そうやって自分の中でひとまず整理した時に俺が来るしこんな事言い出すしで、聖女サマの感情の起伏が大変そう」

「ほんっっっとうにむかつくくらいその通りですし! 筒抜けなの腹が立つし!! っていうかもう……もうーっっっ!!」


 人は羞恥で死ねるのでは、と思う程にセレスは今恥ずかしすぎて死にそうだ。


「聖女サマ真っ赤になって可愛いですよ」

「それはからかってるやつですよね!?」

「半々ですね、すみませんこの二年で染みついた癖がどうしても」


 肩どころかもう上半身が大きく揺れている。楽しくて仕方がないらしいシークの姿に、セレスはなんとか一矢を報いたい。


「そう……そうですよ! わたしはもうあなたへの気持ちはきちんと整理しましたし、そもそもあれはまだ恋とかそういうのに育つ手前のものでしたから。うん、なので、あなたのことはもう……大丈夫です!」

「そんな聖女サマを口説きに来たって言ってるんですよ」


 ソファに腰を掛けたまま、前屈みの体勢でシークはセレスを真っ直ぐに射抜く。


「一旦整理したならもう一度全力で乱します。気持ちが育ってなかったって言うなら、育てますよ最後まで……貴女が、俺なしではいられなくなるくらいに」

「……最後が不安でしかありませんが?」

「依存させまくりたいですよね」

「その発想がこわすぎなんですけど!?」

「なにしろこの二年で拗らせてしまった所がありまして」


 ええええ、とセレスは軽く引いてしまう。何故だ、どうして急にこんな事に、と頭の中がグルグルと回る。すると突然閃いた。なるほどこれだ! とシークを見れば、口を開く前に鼻先で笑われる。


「絶対に違うんですけど、まあ、話があるならどうぞ?」


 これまた筒抜けだ。この時点ですでに自分の考えが間違いなのかもしれない、とセレスの自信はすでに萎みまくっているが、それでも「もしも」に賭けてみる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る