第3話 復讐の炎に燃える?少女かのん その②

背中の骨を削った剣を抜いて颯爽に走り出すウミコブラ。カノンは後ろへ下がりながら電撃銃で応戦する。しかし、その銃撃を軽い身のこなしで躱わす。ウミコブラは間合に入ると同時に剣をしたから斜め上へ切り上げる。

「もらったァ!」

叫んだウミコブラ。すぐさま避けようとしたその時、大きな影がカノンの身体を覆ったのだ。

「うわっ、やっべ!」

影に気がつき見上げると、そこにはカノンの頭3つ分ほどにまで開いたウミコブラ大きな口があった。普通のウミヘビとは比べ物にならないくらいに大きな顔と長い毒牙。そんな毒牙から出る毒の量は致死量を遥かに超えるためまず助からないだろう。ブレードモードは間に合わない。噛みつかれたと思ったその時だった。バチンッ!と大きな音と共にウミコブラは飛び上がる。

「アギャァアア!!いぃ痛えッ!」

ウミコブラはあまりの痛さ呻き声をあげた。その時またまたスーツが喋り出した。

「ハーイ!元気だったかいカノン。またまた登場だぜ!」

「あ、スーツの声!さっきあの蛇頭に噛まれたけど逆にアイツが吹っ飛んだんだけど…」

「それはこのスーツ雷号の特別過ぎる防御機能、その名も『ビリっと1発痺れ針』だぜ!」

「ダサぁ…いけど助かった〜。」

ホッと胸を撫で下ろすカノン。

「あと俺を信じろって前言ったじゃないか!なのに何故そんなにシンダァァ…みたいな顔してたんだい?」

「あ、そういやそうじゃん。」

カノンは完全に忘れていた訳では無かったが、やはり恐怖心が勝ってしまっていたのだ。

「誰と話してんだよオメェ…」

ハァハァ、と息を切らしながら立ち上がるウミコブラ。痺れ針はかなり強烈な痛みのようだ。その姿を見てこれは勝機だと感じるカノン。

「こっからだぜカノン!」

「うん。こっから畳み掛けるよ。」

粒子ブレードを展開し構えるカノン。気づいたらウミコブラもすぐさま構えた。カノンが切り掛かる。それを躱して後ろへ下がる。それを追うように攻めに攻めまくる。しかしそれも全て軽々と躱わすウミコブラ。さらに銃撃もするが、それすらもウミコブラには当たらない。何かおかしいと感じたカノンは、攻撃の手を止めて後ろへ下がる。

「お、まさか狙いに気付いたか?やるな地上人。」

ウミコブラがそう言った途端にウミコブラの狙いとさっきまでの動きの違和感の理由にようやく気が付いたのだ。ウミコブラの狙いは、カノンを抜き去ってそのまま逃げていった美里子とひなこを追って先に殺すというものだ。

「オメェの動きは素人過ぎて避けやすいからよォ、簡単に抜けると思ったけどそうはいかねェみてぇだなァ。」

カノンは完全に舐められていた。先ほどまでの威勢はどこへやら、カノンは知らないうちに追い詰められていた。狙いに気づいた事により、ウミコブラとの戦闘以上に、後ろにいる2人の命を強く意識してしまい、注意散漫になってしまったのだ。そこからは一瞬だった。ウミコブラに勢いよく距離を詰められ慌てて応戦しようとするカノン。

「間抜けが」

ウミコブラはニヤリと笑いながらヒラリとカノンを飛び越えた。

「えっ…ウソ!?」

カノンが振り向いた時には、2人の逃げた方向へ尋常ではない速さで走り出していた。それを追うかのんだが、

「クッソ…追いつけない!」

ウミコブラの足の速さは尋常ではなく、最初に見た速さ以上で、その速さに全く追いつくことは出来なかった。そのままウミコブラは駆け抜けていき、とうとう見えなくなってしまった。


 一方ひなこと美里子は、美里子のバイクに乗って逃げていた。少しだけ落ち着いたひなこだったが、まだ少し手が震えている。美里子もそれを見て、この子には無理だったかなと考えていた。

「…ごめんなさい。」

「アッハッハッハー!別に謝らなくていいのよ!無理なものは無理なんだから、気にしないでね。」

気さくに話そうとするが、少し空気が重い。

「そうですよね…やっぱり私には…」

「ハッ!え、いやっゴメン!そんなつもりで言ったんじゃないのよ!」

「…」

「でもね、ひなこちゃん。今のアナタにはホントに何も無理よ。」

「え、」

「だからね、私達をもっと頼りなさい。そうしないと今のアナタはいつか壊れるわ。」

そう話あっていると、

「追いついたぜェェエエエエ!!」

と叫ぶ声。振り向くとこちらへウミコブラの姿が見える。ウミコブラはそのまま剣を美里子の頭目掛けて投げたのだ。

「ウェ!?ウソぉ?」

慌てて避けようとしたが、避け切ることはできずヘルメットをを掠める。そのままバイクは転倒し、美里子とひなこは遠くへ投げ出された。

「っしゃーあッ!!貰ったぜェェエエ!!」

猛スピードで向かってくるウミコブラ。

「ッ…!」

怯えるひなこの姿を見て、美里子は彼女を抱き寄せる。その時、前から大きな音と共に何台もの車が見える。

「なっ…なんだ、あの数…。」

車の方から声が聴こえる。

「見えました!」

「美里子さーん!大丈夫ですかー!」

「えぇ、大丈夫よ!」

美里子は、それに応えるように自分の無事を伝えると、ひなこの方を見てこう言った。

「だらね〜、私は無理なものは周りを頼るのよ♡」

「…!」

美里子はこうなる事も考えて、救援要請を送り、GPSで自分の現在位置を送信していたのだ。そして美里子はウミコブラの方を指差してこう言った。

「っちゅーわけで、全員ッ、アイツを轢き殺せェェエエエ!!」

驚くウミコブラ。前から来る車を必死に躱わす。そして、分が悪いと逃げようとして振り返ったその時、

「オリャアアアアアアアアア!!」

ママチャリを全速力で爆走するかのんの姿があった。かのんはママチャリのハンドルを掴んだまま足を離して宙に浮く。そして、そのまま空中で自転車ごと大きく腕を振り上げ、ウミコブラ目掛けておもいっきりママチャリを投げつけたのだ。

「オイオイウソだろォ〜〜〜!?!?」

飛んでくるママチャリの速さは時速150kmを優に超えていた。ウミコブラも避けようとしたのだが、振り返って走る構えを取っていたこともあり、体勢を崩してしまう。

「ギヒャアァー!!」

と悲鳴をあげるウミコブラ。直撃したママチャリは、ガシャンッと大きな音を上げてバラバラになった。その時かのんは心の中で、あばよ私の3万円ッ…!と叫んだ。

「追い詰めたぞウミヘビの海底人ッ!!」

そう言いながら車から降りてくる対策部隊の隊員。その数34人。ママチャリとの衝突よって、左腕は折れている。しかし、ウミコブラは構えながらこう叫ぶ。

「3つの海を1つにまとめ、この海世に名を馳せたこの俺、ウミコブラ様がよォ…、こんな所で死ぬ訳ねぇぜェェエエエエ!!」


 海にはいくつもの海底人の国がある。甲殻将軍の下で戦うウミコブラ率いる海蛇隊は、当時200人という少数隊であった。しかし、3000人の敵兵率いる敵将の怪曹(かいそう)という男に奇襲された時のこと、

「包囲される前に突破する!包囲する敵兵の先頭目掛けて全員突撃だァー!!」

そのまま海蛇隊を率いて包囲の外へ抜け出してしまったのだ。その後外側から包囲の側面の敵を削りつつ敵将に近づき討ち取ってしまったのだ。その姿を見た敵兵から海蛇隊は海竜と呼ばれ、その将であるウミコブラの名は大海で恐れられたのだった。そんな怪物がタダでやられる訳がない。


ウミコブラを囲む隊員たち。

「片腕だけで何ができる!全員突撃ィ!!」

そう言いながら襲い掛かる。その猛攻を高くジャンプして躱した後、前の隊員の頭を蹴飛ばす。そして後ろの隊員を踏み台に前へ飛び出した。前にはかのんの姿が見える。かのんが電撃銃をブレードモードにして切り掛かる。しかし、着地と同時に前に蹴飛ばした隊員をかのん目掛けて投げつけた。

「ギヒャアオゥ!!」

「あぁッ痺れ針!?」

痺れ針によって倒れた隊員を心配したかのんをスラリと通り過ぎるウミコブラ。

「うわぁ…も、もうビリビリはゴメンだ…。」

しかし、そのまま逃げようとしたウミコブラの前に1人の少女が立ちはだかる。

「必死に逃げようとしてるお前の情けない姿を見たらさ、なんかもう怖くなくなったよ。」

立ちはだかったのはひなこだった。

「ギギィッ!?ずっ…とビビってたお前がァ…。」

息を切らすウミコブラを前に、ひなこは高熱溶断ブレードにバッテリーを差し込んで回す。赤く光るブレードと共に青い光がひなこを包んだ。

「あつッ!」

その光は高温の熱を発しており、スキを狙おうとしたウミコブラも近づけない。そして光が消えた時、ひなこの姿スーツへと変身していた。

「お前に引導渡してやるよ。」

「クソォ…」

ひなこはバッテリーを更に回していく。それを見た美里子は、

「ちょちょちょちょ回しすぎ回しすぎィ!」

と慌てる。9段階目だ。熱に耐えきれず、ブレードが溶け始める。

「覚悟しやがれ蛇頭あああああ!!!」

ひなこはおもいっきり高熱溶断ブレードで薙ぎ払った。溶けたブレードはかなりの範囲に飛び散った。避けられないと覚悟を決めたウミコブラ。しかし、ウミコブラを庇うように何者かが飛び出してきたのだ。ウミコブラの部下である海蛇隊の1人だった。

「なっ、ライドウ!」

ライドウは盾となり、腹からしたが吹き飛んだ。ライドウが盾になったものの、ウミコブラの右腕だけは守る事は出来なかった。ウミコブラはライドウを抱き抱え走り出す。

「ライドウ…何故…?」

その問いに瀕死のライドウは血を吐きながらこう答えた。

「ウゴフッ…ミゴブラざまの右腕…、守りきれず申し訳ござ…ガハッ…まぜん…。早くお逃げぐだざい。アナタはまだ死ぬべぎではない。わだじのいのじでアナタがずぐわれるなら…わだじは本望だァ…」

それを聞いて申し訳なさと涙が込み上がる。

「すまないライドウッ!俺の…俺の身勝手さのせいだァ…ッ!俺が興味本位に地上へ行かなきゃよォ…、オメェがァ…オメェがこんな目に遭わなくて済んだんだッ!俺をもっと恨んでくれッ!恨まないって言うならよォ…頼むから死なないでくれぇ…。」

涙を流し、必死に話しかけるウミコブラだったが、ライドウの耳に一言も届く事は無かったのだった…。


 今回の戦闘での対策部隊への被害は少なかった。死者はタキのみ。怪我人は踏み台として蹴飛ばされた隊員と痺れ針を受けた隊員と、

「うっ…クッソ…、緊張が解けたら急に肘が…アイタタタ。」

バイクから落ちた際左肘を骨折した美里子の3人であった。ひなこは悔しがっていた。

「くっそ〜、逃げられたかぁ…」

「あ、あれぇ?ひなこちゃん元気になってるぅ…」

「いやぁ〜みんなにボコボコにされてる蛇頭見てるとさ、なんか滑稽に見えた。」

「ハハハ…、ハハ、ハハハハハハ!」

「かのん、無理に笑わなくてもいいよ。」

「…」

「あと守ってくれてありがと。あと…プッ…自転車、ククク…カッコよかったよ笑」

「わー!うるさ〜い!」

2人のじゃれあいを眺める美里子。

「2人はいいコンビになりそうね。クッ…アイタタタ…。2人はねぇ…。」

「あれ、どうしたんです?美里子さん。」

「いやぁ実はもう1人が問題なのよね…」

「えぇ、それは困りますね…」

「そうなのよぉ〜!電話番号登録してんだよ間違える訳ねぇだろ!人違いって…ふざけんなァーーーー!!!イィッ!?イタタタタ…。」

「あんま無理しないでくださいね…」


 それから数日後、美里子はかのん、ひなこ、まさとしの3人を研究室へ呼び出していた。まさとしから急用で15分ほど遅れるとメールがあったので、それを待ちながら話し合っていた。

「美里子さん、左肘大丈夫ですか?」

ひなこは自分のせいで怪我をさせたため、少し申し訳なさそうに聞く。

「大丈夫よこのくらい!心配してくれてありがと。チュッ♡」

「///」

頬を赤るひなこ。

「2日連続で海底人が来たから毎日来るのかなって内心不安だったけどたまたまだったんですね。」

とかのんは言う。

「そうねぇ、今回はレアケースだったわ。というかね、基本海底人は100、200は引き連れてやってくるからね。1人しか来なかったのもかなりラッキーだったわ。」

「てか他部隊に車ありましたけど、私たち無いですよね?なんでですか?」

「免許あったら取り寄せるけどあるの?」

「…」

「…」

そんな感じ話をしていると、ようやくまさとしがやってきた。そしてそれを見た美里子は鬼の形相で近寄って行き、怒鳴りながら問いかける。

「おいテメェ!!前のアレはどういう事だゴルァ?アァン?」

…問いかけではなくただの脅しだった。しかし、それに動じずまさとしは答えた。

「いやぁ、あの日は彼女の誕生日パーティをしていた。」

「「「彼女ォーーー!?!?」」」


第3話 復讐の炎に燃える?少女ひなこ

終わり

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