後編:終末が終わる、良い平日を

2日目、明日になればまたリセットされる、その前に考えられるかどうか時間の問題だ。

とりあえず、まずループする前の事を思い出そうとした。


「何か覚えてるか?」


「はい暁斗先生!覚えてません!」


そう言った瞬間、僕に頭に軽めのゲンコツが入った。

佐原の方を見てみると、半ギレになりながら、拳を握りしめている。多分これふざけたら次はまじ殴りされそう。

じっくりと考えてみるも、やはりきっかけになりそうなのは覚えていない。何回もループし過ぎたせいだ。


「圭人、あんまりふざけてるとループ解除考えるの手伝わないからな」


「ごめんごめん!」


両手を合わせて反省の意を示しながら、僕は思い出そうと何とか記憶を絞り出した。

すると、一つだけ曖昧だが、記憶に残っているのを思い出した。


「そういえば、ループが始まる前に神社の前で何か呟いた気がするんだよね…」


「何をだ!?」


がっしりと両肩を掴みながら詰め寄ってくる佐原に、少し驚いたが、何とか上手く説明する。


「金曜の放課後帰ってる最中に「ずっと週末が続けばいいのに」って、たしか呟いたんだよ。多分その日の夜に神様がその呟きを願いごととして受け止めたんじゃないかな」

「つまり週末がになったって訳だよ」


少し寒めのギャグを言ってみたが、佐原はそのままスルー。本当に申し訳なくなってきた。


「んじゃ後は簡単だな」


机から財布を取り出すと、中に入っていた五円玉を取り出して僕に渡した。


「これ渡すから、今から神社行ってこの五円玉をお賽銭箱に入れてこい」


「なんでだよ…」


「いや、神様がそうしたんならもう1回神頼みすりゃ済む話だろ?…それともこのままループしてたいか?」


「嫌です」


即答した。何回も同じ言葉を聞いていたら頭がおかしくなってしまう、急いで終わらせないと。

五円玉を受け取り、ポケットに入れた。


「なら…早くいつもの神社行ってこいよ」


「うん、行ってくる」


佐原の家を出て、神社まで走った。

とうとうこの地獄のループが終わる。狂っていたのだ、週末なんてものが何度も繰り返されるのは。



ポツポツと雨が降り出し、傘の無いまま入口に着いた。

階段は濡れていて滑りやすくなっていたが、ゆっくりと一段一段上がっていった。


「うわっ…危なかった…」


少し滑ったものの、何とか立ち直した。

残り数段の所で、鳥居と神社の瓦が見えてきた。

雨で服がずぶ濡れになりながらも、神社に着き、ポケットの五円玉を賽銭箱に入れ、目を瞑り手を合わせて祈った。

この世界が元に戻りますように、と。


1分程祈っていると、一瞬だが、何かが変わった気がした。

目を開けて周りを見てみると、先程まで降っていた雨がやみ、太陽が顔を出していた。


「暑っつ…」


セミの鳴き声が聞こえ始め、少しづつ暑くなってきた。


「…帰ろう」


階段を降りて戻り、家に帰った。

この日、僕はなぜか安心して残りの時間を過ごせた。きっと神様が戻してくれたのだと、そう思えた。


翌日、目を覚まして、テレビを見にリビングへ行くと、2日間の間、朝リビングにいなかった母さんの姿があった。

僕に気がつくと「おはよう」と、その挨拶は昨日や一昨日のイントネーションとは違っていた。


「おはよ…う」


テレビを見てみると、ちゃんと月曜日となっていた。


「もうすぐで8時だから、着替えて朝ごはん食べてき」


僕は頷き、自室に戻って着替えた後、キッチンテーブルに置かれていた朝ご飯を食べ、ランドセルを背負って学校へ向かった。

道中、佐原に会い、挨拶を交わそうと近付いた。


「おはよう暁斗!」


「おはよう、その様子だと、無事にループは無くなったみたいだな」


「うん、もうループはこりごりだよ…もうあんな目に遭うのは嫌だな」

「ほら行こう、急がないと遅刻しちゃうよ」


「そうだな、ってかそもそも圭人が週末がずっと続けばいいって、神社の前で呟いたのが原因だろ?」


「うぐっ…それはそうだけど…」


佐原の正論が刺さる。

確かに神社の前で呟くのが悪かったのかもしれない。神様のいたずらでこうなったのだ。


「まぁ、学校行くのめんどくさいってのは分かるけど、俺がいるんだしさ、それに父さんが言ってたけど、楽しいのは学生時代が1番だってさ」

「いつかは俺達も大人になるんだし、今のうちに勉強もだけど、でも楽しもうぜ」


「…そうだね!」


大きく頷いて、佐原と共に学校に向かおうとした瞬間、また金曜のように突然大きな突風が僕たちを襲った。


「うわっ…なんだこの風…」


「この風…僕が先週帰ってる時に起きた突風だ!」


「はぁ!?って事は今度は俺たちがループするってことかよ…!」


「でもそれにしてはまだ…こっちの方が強くはない…気がする」


「…って事はまぁ、ループはしないってことか?」


「そうかも、それにここ神社の前じゃないし」


「あっ…」


僕たちのいる場所は神社から少し離れた場所、学校にもう少しで着くというところで突風が吹いてきたのだ。


「まぁ…なんというかつまりは、ただの風か」


「そういう事だね」


「…はぁ俺までループするのかと思ったわ」


「大丈夫だよ、もしなっても僕が助けるし」


「それは嬉しいけどさ…」


たわいのない雑談をしながら、僕たちはまた歩いていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

金曜が終わる、良い終末を @kazuhisa_syukyo1

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ