第9話 侵入
俺にはまったく役に立たなかったが、意外にもシズナのステルスアイテムとやらは効果的だった。雷天のアジトにすんなりと侵入に成功する。
「ステルスアイテムってちゃんと効果あるんだな」
「あんたが異常なんだって、気配消して、姿消して、動きの音を完全に消し去るアイテムなんだから、気付く方がおかしいのよ」
人がいないのを確認しながら小声で話をしていたのだが、誰かが近づいて来た。話をやめて黙る。近づいて来たのは二人の賊で、何やら話をしながらこちらに歩いてきた。
「おい、例の話聞いたか?」
「炎天様がやられたって話か? いくらなんでもガセネタだろ?」
「いや、本当みたいだぞ。唯一の生き残りが本部に駆け込んだそうだ」
唯一の生き残りとはたぶんベナーくんのことだな。あたりまえだがあの後、どこかに逃げ込んだようだ。
「それでやったのはどこの組織の人間なんだ。うちに喧嘩売るなんて、絶海の連中か、アストラルブロウくらいなもんだろうけど」
「いや、そのどちらでもないようだ。どうも冒険者風の男女のペアらしいぞ」
「冒険者だと!? まさか伝説級冒険者の誰かか!?」
「それが無名の冒険者みたいだ。今、組織の諜報部が急いで情報を集めているようだな」
ここの諜報部がどんなもんかは知らないけど、昨日今日冒険者になったばっかの俺の情報なんてあるわけがないだろう。もし引っかかるとすればシズナの方だが、こっちも道具士なんてよくわからん職業だし、たぶん知られてないと思う。
呑気にステルス状態でそんな話を盗み聞きしていると、突然けたましくサイレンが鳴り響いた。やばい、気付かれたかと思ったけど、そうではないようだ。
「緊急の呼び出しだ。早く集会場にいかないと雷天様に殺されるぞ」
ゾロゾロとどこかに向かう賊どもに俺たちもついていく。集会場と呼ばれていたのはアジトの中心くらいにある広い円状の部屋で、そこには100人くらいの賊が集まっていた。
集まっている輩たちに、一番偉そうにしている男がこう話し始めた。
「炎天が殺された。わかるな、それがどういう意味か! そうだ、どこの誰だがわからないが、そいつは八獄天に喧嘩を売ったってことだ! 情報ではそいつらは今度は俺を狙っているそうだ。面白い!! この雷天がそいつらを返り討ちにしてくれるわ! いいか、不審者が忍び込もうとしてきたらここに誘導しろ! 処刑執行は俺が自ら行う!」
やる気満々だな。そのやる気を邪魔するのも忍びないけど、俺としてはさっさっと用件を済ませてこんな場所お暇したいとこなので、このまま必要な情報を聞いてしまおうと考えた。
「奴らはドラゴンの牙を狙っているそうです! それをこの場所に持ってきてはどうですか! そうすれば安易にここへ誘導できると思います!」
雑兵の一人の真後ろからそう叫んだ。俺の姿は見えないので、周りからはこの雑兵がそう叫んだよに聞こえたはずだ。
「おっ、そうか、なるほどな。お前なかなかやるな、名前はなんて言うんだ」
雷天は、関心のまなざしでその雑兵に声をかける。雑兵は状況を理解できないでオドオドしていたが、雷天に名前を憶えて貰えるのはやはり嬉しいのかすぐに答えた。
「お、俺はバムゴル、イザナ村のバルゴムです」
「うむ、覚えておこう、バルゴヌ」
さらっと間違えているけど、バルゴムくんはそれを指摘できない。何か言いたそうに悲しい瞳で雷天に訴えかけることしかできなかった。
ほどなくしてドラゴンの牙ぽいのがその場所へと運ばれてきた。狙い通りだ。後は隙を見てこれを盗んで逃げるだけだ。その意思を伝える為に、ポンポンとシズナを軽く叩いて合図を送る。
「きゃっ! どこ触ってんのよスケベ!!」
見えなかったので仕方ないのだが、ポンポンした場所がシズナのデリケートな部分だったようだ。怒った彼女はごまかしようのない音量で声を上げる。
「なんだ!! 女の声がしだぞ!!」
どういうわけか雷天の部下に女性はいない。シズナの甲高い声は無茶苦茶目立ったようで場所も特定された。
「こっちの方で声がしました!」
「どうやら隠れて忍び込んでいやがったな! よし、アンチステルスを持ってこい!」
「エイタ! もう無理、対ステルスアイテムを使われたら終わりよ!」
「ぐっ……仕方ない。今回は穏便に済ませたかったけど無理だな」
「ちゃっちゃとやっちゃって!」
むごいとか、やりすぎとか言ってたのに、自分の身に危険が及ぶと容赦ないようだ。俺はリクエストに応えて対ドラゴンスキルを発動する。
「龍殺雷撃!」
雷天と言うからには雷撃魔法やスキルを得意としているのだろう。ここはあえて相手のお株を奪う雷撃攻撃で攻撃した。
周囲に生み出された雷は、お互いを伝達させるように繋がり、周囲に死の電撃をまき散らし、一瞬でその場にいた全ての賊を黒焦げにした。
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