第8話 雷天

「いくらあんたが強いって言っても、雷天だけは止めた方がいいわよ」

「えっ、どうしてだ? 炎天ってのと似たようなもんだろ?」

「炎天は八獄天の中では大したことないのよ、だけど雷天は一、二を争う実力者だと言われているわ」

「ああ~奴は八獄天の中では最弱ってパターンだな」

「まあ、そういうこと、悪いこと言わないから諦めなさい」

「だが、断る!!」

「はぁ!? どういう意味よ」

「ドラゴンの牙を取り返さなきゃ依頼を達成できん! 俺はどうしても雷天の元へ行かなければいかないのだ!」

「その依頼の報酬っていくらなの?」

「銀貨20枚」

「ばっかじゃないの! そんな安い依頼で、なに宿命の仇でも討つようなテンションでいられるのよ!」

「男が一度受けた依頼を、はい出来ませんでしたで終わるわけにはいかん!」

「なんとも面倒臭い男よね、あんた……まあ、もう私には関係ないけどね」

「何言ってんだ、お前はビジネスパートナーだろ?」

「そんなの解消するに決まってるじゃないの! 雷天なんて相手にして私になんのメリットもない!」

「そりゃそうだが我慢しろ!」

「我慢せんわ!!」


「よし、夕食はお前の好きなメニューにしてやるから考え直せ」

「どうせ、その代金も私が払うんでしょ」

「そうだが、そんなのどうでもいいじゃないか」

「よくないわ!」


ここで金づるを逃すわけにはいかない、なんとかビジネスパートナーを維持する

為に説得を続けると、シズナはこんな提案をしてきた。


「もう……わかったわよ、その代わり、私のもう一人の敵討ちも付き合って貰うわよ。相手が相手だけに完全に諦めていたけど、貴方がいればもしかしたら達成できるかも」

「なんだよ、まだ仇がいるのか?」

「そっちは母親の仇なの」

両親二人とも別の仇がいるなんて、どんな家庭環境なんだよとツッコみたくなったが、ここはデリケートな問題かもしれないのでスルーした。


「よし、それも手伝ってやるからとりあえず飯食いにいこう!」

「……もしかして私の事、いい金づるとか思って無いでしょうね」

「うっ、あ……ああ、思って無いよ」

「思ってるじゃないの!」

「まあ、いいじゃないか、それより晩飯を何にするか考えようぜ!」

「たく……こうなったらとことん付き合うけど、絶対に敵討ちに付き合って貰いますからね!」


この後、晩飯を鍋料理にするか鉄板料理にするかで小一時間ほど揉めた。結局じゃんけんで公平に決めたのだが、シズナはまだ納得していないようだ。


「そういや、好きなメニューにしてくれるんじゃなかったの」

「それは母親の敵討ちを手伝う件で相殺された。ほら、そんなことより、もう肉やけてんじゃないのか、貰うぞ」

「だっ!! それは私が育てた肉!!」

「そんなの早い者勝ちだ。師匠とこういう食事になったらそれはもう戦争になったもんだぞ」

「知らないわよそんなの!」


そんな感じで食事を堪能して英気を養う。明日は雷天への元へと赴く。居所は門番のベナーくんが教えてくれたのだが、彼は組織の情報をそんな簡単に教えて大丈夫なのだろうか、せっかく炎天の部下唯一の生き残りなのに軽率すぎる行動に心配になる。


まあ、こちらとしては助かるだけだから心配はしても気にはしない。



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