第7話 とりあえずスパスパと

逃げると言う選択肢はなかった。ここまできてドラゴンの牙を諦めるのは馬鹿らしい。となると殺到する賊たちをどうにかしなきゃならないのだが、シズナは貴重なアイテムを使うのを躊躇してるし、やはり俺がどうにかするしかないようだ。


「銀龍斬烈輪!」


これは鉄壁の防御力を誇るシルバードラゴンを屠る為に師匠が開発した技で、大抵の物はスパスパと斬れる光の輪を無数に生み出して放つ。


生み出された光の輪は、まるで生き物のように賊に襲い掛かり、スパスパと斬り伏せていき、その場にいた賊どもをあっという間に殲滅した。


ドラゴン用のスキルだけあって攻撃力がえげつない。人間なんてひとたまりもなく、それが生み出した光景は惨状と言えるくらいに壮絶だった。


「あんた無茶苦茶強いのね……だけど、ちょっとやりすぎなんじゃないの……」

シズナは完全に引いている。しかめっ面で今にも吐きそうに口を押えていた。

「しかたないだろ、俺には対ドラゴン用のスキルしか使えないんだから。それに今のは俺のスキルの中では地味で弱い方なんだぞ」

「弱い方なの!?」

シズナは心底驚いているようだった。


「ひぃ……助けてくれ……」

そう恐怖の表情で懇願するのは門番のベナーくんだ。情報提供をお願いする為に、生かしておいた。


「いや、こんなことするつもりなかったんだけどね、わりーわりー」

「何でも言います、命だけはお助けよ……」

「大丈夫、俺は殺人鬼じゃないから無用な殺生はしない、一つだけ質問するから答えてくれ」

「は……はい、なんでも答えます」

「最近、ドラゴンの牙ってアイテムがここに献上されたと思うんだけどどこにあるんだ?」

「献上品は全てこの奥にある宝物庫の中に保管されていますのでそこかと」

「案内してくれ」

「はい、こちらです」


そう言ってベナーくんは俺たちを宝物庫へと案内してくれた。


「うわ~すっごいお宝の山! これで私たち大金持ちね」

「何言ってんだよ、これは全て盗品だぞ? 手を付けたら賊と同類になる」

「それ本気で言ってんの?」

「あたりまえだ。俺は貧乏しても賊にはならん」

「スパスパって人をあれだけ残虐に殺しておいて、なに真っ当なこと言ってんのよ」

「人? 賊に人権無し、ということはあれは人ではないのだ」

「しれっと怖い事言うわね……ちなみにこれを私が盗ったら……」

シズナは黄金を手に持ってそう聞いて来た。

「人権無しになるな」


その答えにシズナは、少しの間をおいて手に持った黄金をそっと戻した。


それから宝物庫でドラゴンの牙を探したけどそれっぽい物は見つからない。

「ちょっと聞いていいか?」

「えっなに?」

「ドラゴンの牙ってどんな見た目だ?」

「えっ!? そんなのもしらないで探してたの? いったい今まで何を探していたのよ」

「いや、その場の雰囲気で探してたけど、やっぱりわかんねえわって今気づいた」

「あんた戦闘は凄いけど、ちょっとあれね……」

「あれってなんだよ、それよりどんな見た目か教えろよ」

「いや、私も知らないわよ」

「なんだと! 人の事言えないじゃねえか! 今まで何探してたんだよ」

「そんなの雰囲気に決まってるじゃないの! そっちがモノを知って探してるだろうから、付き合って探している雰囲気だけ出してたの!」


こいつ、どんどんキャラが崩れてくるな、どんだけネコかぶってたんだよ。まあ、不毛な言い合いをしていてもしかたない。この場で一番常識人ぽい門番のベナーくんに聞いてみた。


「ど、ドラゴンの牙ですか!? 牙って言うくらいですから、獣の牙ぽい形じゃないんですか?」


真っ当な答えとはこういうものだという模範を見せてもらった。確かにその通りだな。獣の牙っぽいものを探そう。


しかし、それっぽいモノすら見つけることができなかった。途方に暮れていると、ベナーくんが何かを思い出したように声をあげる。


「あっ! そういえば……」

「どうした? なにか思い出したのか?」

「昨日、ここへ八獄天の一人、雷天様が遊びに来られたのですが……炎天様と雷天様は二人とも賭け事がとても好きでして、前にもあったのですが、ここの宝物庫にあるモノを賭けのチップに使って、持っていかれるってことがあったものですから、もしかしたら……」

「なんだと! もしかしたらドラゴンの牙は今はその雷天のとこにあるってことか!?」

「はい、これだけ探してないのですからその可能性は高いかと」

「めんどくさっ!!!」


心の底から声がでてしまった。

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